ロワール河畔に世界のチーズ大集合(1)
フランスの北部に広がる大平原は、地質学的には「パリ堆積盆地」というらしいが、東のヴォージュ山脈の麓に端を発し、西はノルマンディーに達する巨大な平野である。その盆地の中心地であるパリからからロワール河を目指して南西に下ると、まずは広大なボース平野(La Beauce)が広がっていて、初夏であれば黄金の麦畑がどこまでも続く。やがて麦畑の向こうにヨーロッパでも最大級のカテドラルの尖塔が見えてくる。世界遺産のシャルトルの大聖堂である。この教会のバラ窓のステンドグラスが特に美しい。ここから平原をやや南に下りロワールの谷への道をたどるとまもなく、ロワール川とその支流のシェール川の合流点にある大きな町に行きつく。ここが世界最大級の『チーズ及び乳製品のプロ向けの国際見本市』が開催される都市 トゥール(Tours)である。
ヴァレ・ド・ロワール(ロワールの谷)の観光の目玉といえば城郭巡りだが、トゥールには観光客を呼びこむほどの優雅な城はないが、ロワールとシェールという大きな川をまたぐ美しい町で、木立の中をスマートな路面電車が行き来する。このトゥールの町で、世界のチーズを集めた大規模な国際見本市が隔年開かれるようになるのは2013年とまだ新しく今年で4度目である。筆者は遥か昔にこの町を訪れたことはあったが、チーズの見本市は初めての体験であった。この大会の正式名称はモンデアル・デュ・フロマージュ(Mondial du Fromage)といい、チーズを主体とした乳製品のプロ向けの大イベントである。
今年の展示会場はシェ-ル川寄りの広い公園敷地の中にあり100m×100mのドーム型の柱のない巨大な空間に世界中から参加した134の生産者やチーズ業者のブースが並んでいた。その会場のほぼ真ん中の中央通りに面したG21番がCPAのブースで、ロックフォールの生産者と背中合わせの小さなスペースである。残念ながら展示する日本のチーズを持ち込むことができなかったため、壁面のパネルにポスターやチラシを貼り、急遽用意した日本のチーズ工房とチーズを紹介したフランス語と日本語のパンフレットをひたすら配る。しかし、日本のチーズに対する関心は高く、他国の出品者は次々とCPAのブースを訪れパンフレットを受け取っていく。来場者はすべてチーズに関りを持つプロであり、一般の来場者はいない。われらのブースの前はComtéの広い展示スペースがあり来客が絶えない。筆者もCPAブースの遊撃隊として時々パンフレット配りに加わったが、目当ては1000種は超えると思われるチーズの試食である。
当然、地元フランスのチーズが圧倒的に多かった。だが今年は中国やロシアのチーズが多く出品されたと後で聞いたが気が付かなかったが、イスラエルやブータンのチーズを見つけた。別棟では連日、チーズの審査やプラトーコンテストなど各種のイベントが開かれ、その様子が展示場の大型のディスプレイに映し出される。その画面を時折眺め片っ端からチーズを試食し会場を回るが、全部食べるのは到底無理なので珍しい物や変わったチーズを食べて回ったが、長旅の疲れもあって数十種類でギブアップ。チーズ漬けになる三日間の初日が終わった。
次回は変ったチーズを写真でお見せします。(この項続く)
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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