これから正月にかけてシャンパンを飲む機会も多いと思いますが、シャンパンとはいかなる酒なのか。普通のワインを作る工程はわりに単純ですが、泡が命のシャンパンはその何倍も手間がかかります。あの細かい泡をビンに閉じ込めるのに何百年もかかりました。
最初にシャンパンを飲んだ日本人はだれか。記録を残しているのは福沢諭吉でしょうか。彼の「福翁自伝」によると、1860年の春に例の咸臨丸でアメリカに渡った折に、サンフランシスコで大歓迎を受けパーティに招かれます。そこへ「突然酒がでて徳利の口を開けると恐ろしい音がして、変なことだと思ったのはシャンパンだ」と書いています。アメリカ人は当時から派手にコルク栓を飛ばしたのでしょう。その頃シャンパンはアメリカに沢山輸出されていました。であればそれより前にアメリカに渡り生活したジョン万次郎が日本人で初めてシャンパンを飲んだ可能性は高いのです。漢字では「三鞭酒」と書きます。
日本では普通シャンパンといいますが、フランス語ではシャンパーニュ(Champagne)です。この発泡ワインの発祥がシャンパーニュ地方という事でそれが酒の名前になった。今では泡立つワインは山ほどありますが、本物には必ずChampagneの文字があります。しかし、このワインが泡立つようになったのは17世紀後半の事なのです。寒いこの地方のワインは、秋に仕込むと寒さで発酵が止まってしまいます。当時このワインを樽に入れロンドンに輸出されていました。それをビン詰し春を迎えると再発酵し泡が発生。当時ロンドンには上質なガラスビンとコルク栓があったのでその泡をビンに閉じ込めることができたのです。1660年代になるとこの発泡性のワインはロンドンで人気が出、その後パリでも流行します。でも現在のような優雅な泡立ちのシャンパンになるには、丈夫な瓶とマッシュルーム型のコルク栓、そして添加する糖分の量からビン内気圧を算出する科学的な技術が必要でした。19世紀の中頃にしてまだ熟成中のビンが3割以上も破裂したそうです。
シャンパンの発明者は天才醸造家といわれたドム・ペリニョン僧だという話が巷に流布しているようですが、彼はコルク栓を取り入れてビン貯蔵を可能にしたが、現在の様なシャンパンを作り出したわけではないと、ワインの巨匠の本にありました。この僧侶の名をとったドム・ペリニョンといえば、ワイン好きならだれもが知り飲みたがる高級シャンパンですが、映画「007」でジェームス・ボンドが美女を籠絡する小道具に使ったことで一躍知られるようになります。通称ドン・ペリ。特にロゼは高価です。
18世紀の後半フランスのサロンや宮廷ではシャンパンが大流行。革命前夜の貴族社会の風紀は乱れに乱れ男女入り混じって連日のバカ騒ぎ。シャンパンがそれに拍車をかけたといいます。そんな訳でフランスではシャンパン付の食事を共にすると女性はすべてを了解したことになると言いますから、淑女たるものは油断召されるな。筆者もシャンパンは好きですが、男同士や一人で飲む酒ではありませんね。シャンパンの優雅な泡は、妙に人の心を浮きたたせる色っぽい魔力があります。
そこで、日本の代表的な詩人堀口大学の「シャンパンの泡」という詩を紹介しましょう。
それはシャンパンの泡ですね / 奥さんあなたの口紅が / 私の脣(くち)を赤くした / その場限りの恋ですね / それはシャンパンの泡ですね
というような事件が起こるというわけです。この年末年始はシャンパンの泡にご注意を。
合わせるチーズはシャンパンと同郷のシャウルスなどいかがでしょう。