市販のプレーン・ヨーグルトのふたを取ると、蒸着されたアルミ箔の上に、今でもこんな文言を印刷しているメーカーがあります。「乳清をすてないでください。ヨーグルトの上に水分が浮いていることがありますが、これはヨーグルトの成分の一部です・・」。
乳清とは「ホエー」とも呼ばれ、チーズを勉強する時に最初に学ぶ言葉ですね。
最近は一部の会社の製品だけがこの様な表示をしていますが、日本人が甘くない、いわゆるプレーン・ヨーグルトを現在のように日常的に食べるようになってから30年位でしょうか。最初は表面に浮いてきたホエーをすてる人が多かった。現在もこの文章が生きているのは、まだヨーグルトを正しく理解していない人がいるということでしょうか。異文化が生活に深く浸透するには時間がかかるのですね。
今回はこのホエー、つまり乳清(乳漿とも)の話です。牛乳を例に話を進めます。食品成分表によると、普通牛乳の成分は87.4%が水分で、残りの12.6%が固形分ということになります。その固形分の中身は脂肪3.8%、蛋白質3.3%、炭水化物4.8%で、あとは微量成分です。さて、チーズを作る時にはまず、ミルクをレンネットという酵素で固めていますが、この時に脂肪とカゼインと呼ばれるタンパク質とカルシウムなどの微量成分がチーズの方に取り込まれますが、最も多い炭水化物(乳糖)などは取り込まれないで流れ出てしまいます。従ってチーズを作る時には大雑把に言って、原料乳の80%前後という大量の水分(ホエー)が出るわけです。チーズを作る時に問題になるのはこの大量に出るホエーの処理です。ヨーロッパでは豚などの家畜の餌にしてきましたが、大工場ではホエーを濃縮乾燥して粉末にし、粉ミルクやお菓子などに利用していますが、中小のチーズ工房では設備費が膨大で不可能です。しかし、このホエーには乳糖の他にホエー蛋白と呼ばれる、凝乳酵素や酸では固まりにくい蛋白質も含まれていて、捨てるのはもったいないですね。
ホエーに出てしまう蛋白質は牛乳の場合は0.2%ほどですが、羊乳だとその5倍程のホエー蛋白が出てしまうわけです。そこで、この蛋白質は加熱すると凝固する性質を利用して、95℃位に加熱し取り出します。この方法はホエー蛋白の多い羊乳のチーズを多く作っているイタリアで盛んに行われています。これがリコッタです。この名はRicotto(二度煮る)という言葉からきています。水牛乳もホエー蛋白が多いので、モッツレラを作ったあとのホエーでリコッタが作られていますが、これは高級品です。現地で食べてみましたが濃厚でとてもおいしい!
かつてリコッタはチーズの仲間に入れるかどうか、という論争が起こりましたが、今ではチーズの一品種ということになっている。フランスのコルシカ島ではブロッチューという名前で同様のチーズが作られていますが、日本ではホエーチーズといっています。
ホエーから作られる変わりダネはホエーやバターを取った後のバターミルクを煮詰めて作るノルウェーのイェトストです。乳糖が多いので少し甘くキャラメルの様なテクスチャーです。