ヌラーゲとリコッタの島サルデーニャ
地中海のど真ん中にある大きな島といえばサルデーニャ島である。そのすぐ北にある、弟分ともいうべきコルシカ島は、小さいけど山脈が海中にそのまま沈んだような島で平地はほとんどなく、北部には2500m超の山がいくつもそびえていてスキー場まである。その点サルデーニャ島にはそこそこ平野らしきものがある。ローマ空港からサルデーニャ島の南部の都市カリアリまで飛び、そこから、サルデーニャのチーズをたずねて車で北上した。この島を車で走ればまず目に付くのがヌラーゲと呼ぶ古代遺跡だ。紀元前千年紀あたりから千数百年にわたって築かれたという古代の要塞である。石を積んだだけのさほど大きくない遺跡なのだが、その数は7000~8000ヵ所というから半端ではない。道を走っていると至る所でヌラーゲに出会う。
次に島を走っていてよく出会うのは羊の群れである。羊の群れの横断でしばしば車はストップさせられる。サルデーニャは現在イタリアの自治州になっているが、島の面積は九州より少し小さいが最近の統計では人口は167万人超であるが、どこかの国の島と同様、過疎に悩んでいるようである。それに対して羊の数を調べてみると、その飼育頭数は全イタリアの40%で290万頭というから人口はより羊の方がはるかに多いのである。肉用に飼われている羊もいるだろうが、この島ではほとんどがチーズの原料を提供する羊だ。
イタリアのチーズ代表といえばペコリーノ(Pecorino)と呼ぶ羊乳製のチーズで、イタリア本土の主に中部から南部、そして地中海の島々で作られている。このペコリーノには生産地域名が付けられたP.D.O.(原産地名称保護)チーズがいくつかある。トスカーノ、シチリアーノ、サルド、そしてロマーノだが、これらのチーズは名乗った土地で造るのが原則なのだが、最も歴史のあるローマ産のペコリーノ・ロマーノは、現在ローマがあるラッツィオ州では全く作られておらず、ほとんどが、この過疎の島サルデーニャで作られているという。それで原産地名称(P.D.O.)の方はどうなるのだろうか。詐称ではないのかと心配になるが、そこはイタリアの大らかさなのだろう。誰も気にしない。ローマ近辺にはもう、羊を飼うスペースがないのである。というわけでサルデーニャ島の工場では、Sardo(サルデニャのP.D.O.名)という自前の中型のペコリーノと並行して同じ工場で、巨大なペコリーノ・ロマーノ(Romano)を大量に作っているのである。
この文のタイトルに、リコッタの島としたのを不審に思う向きもあると思うが説明しておこう。リコッタは今ではチーズの一種とされているようだが、原料といえば、チーズを作る時に出るホエイが主原料である。ミルクには凝乳酵素で固まらずにホエイと一緒に流れ出るホエイ蛋白質というのがあって、この蛋白は熱で固まるので加熱凝固させてチーズにするのである。ではフランスに少なくてイタリアに多いのはなぜか。こんな解説をした資料があった。羊乳のホエイ蛋白は牛乳のそれの数倍多いので効率がいいので、羊乳チーズが多いイタリアでリコッタが多く作られるのだという。フランス唯一のホエイチーズのブロッチューはチーズ製造室の片隅でつつましやかに作られていたが、サルデーニャのペッコリーノの工場では、大量のリコッタが作られていて、その種類もフレッシュの他に、熟成したStagionataや、燻製にしたAffmicattaなど数種類のリコッタが作られていた。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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