チーズのみならず乳製品が骨によいことは皆様よ~くご存じのことと思います。何故、乳がいいのですか?骨の健康に必要なカルシウムが豊富に含まれているから。ピンポ~ン。ですがー、カルシウムだけではありません。しなやかで丈夫な骨を作るためには良質なたんぱく質、ビタミンD、そして運動が欠かせないのです。吸収がよく含量も高いカルシウム(2016年11月20日コラム)に加えるに、良質なたんぱく質を同時に摂取できるので骨によいのです。しかし、ビタミンDは殆ど含まれていません。そのため、欧米では牛乳にビタミンDが添加されています。日本では日照時間が長いので、ビタミンDは日光を浴びることで体内合成されます。ただ、日照時間が短い地域に住んでいる方々の中にはビタミンDが不足気味の方がいるそうで、そういう方はしらす干し、いわし丸干し、すじこ、などビタミンD含量の高い食品も食べるようにするとよいと言われています。そして運動です。骨に負荷をかけると骨密度が高くなります。
乳製品を沢山食べる人は骨密度が高いことは多くの論文で検証されています。しかし、乳製品の摂取が多ければ骨密度が高くなるので、当然骨折リスクが低くなると考えますが、何故かそうとは言い切れません。勿論、乳製品摂取が多いと骨折リスクは低いという論文は多数ありますが、その反面、両者は無関係とする論文も少なくないのです。その理由として、骨折の原因は多岐にわたり、食生活の他にも人種的特徴(身長が高い/低い、足が長い/低い、など)、住んでいる緯度(日照時間が長い/短い)、日常生活(すぐ車に乗る/歩く)などが例示されます。また、骨粗鬆症による骨折の他、転倒や事故など食生活とは無関係の骨折も含まれるためです。
少数ですが、乳製品を食べると骨折リスクが上がるという論文もあります。特に、反乳一派にしばしば利用される論文が図1に示すものです。この図を見れば、乳製品摂取が高い国における骨折頻度が高く、一般の消費者なら乳製品を食べると骨折になりやすいと誤解してしまいます。しかし、この図には大きな落とし穴があります。上述した骨折に関係する様々な原因の影響を調べていないのです。したがって、乳製品と骨折の関係を論じるような科学的な解析結果ではないのです。その点は多くの研究者により指摘されているのですが、反乳一派にとっては都合のよい“科学っぽい”根拠として使われます。
もう一つ、おかしな論文が2014年に発表され(Michaëlsson et al., BMJ 349: g6015, 2014)、国際酪農連盟(日本を含めた世界の酪農・乳業関係者の非営利団体、IDFと略記)ではこの論文を巡ってザワついています。この論文は別名スウェーデン研究とも呼ばれ、スウェーデンの男女に関する乳製品摂取と死亡リスク、骨折リスクの他、心疾患やガンなどとの関係を調べたものです。その結果、①女性が牛乳を摂取すると、死亡リスク、骨折リスク、心疾患リスクが上がるが、男性は無関係、②ヨーグルトやチーズの摂取は、男女ともこれら疾病とは無関係、③牛乳のみリスクが高いので、乳糖が体内で分解されて生じたガラクトースが原因となっている可能性がある、と記載されています。
IDFがザワつく理由は、ガラクトースが本当に何か影響しているのかという点です。ネズミやハエを使った動物実験では毎日ガラクトースを食べさせ続けると健康にマイナス効果がでるらしいのですが、健常なヒトではそのような報告はなく、必要な糖質だからです。チーズでは乳糖が殆どないのでガラクトース云々という問題はありません。ヨーグルトでは乳酸菌が乳糖をグルコースとガラクトースに分解し乳酸を生成しますから、乳糖含量が下がります。そのため、ヨーグルトやチーズでは問題ないのだとスウェーデン研究では述べています。しかし、通常ヨーグルトを製造する場合は乳固形分を上げるために脱粉やホエイ粉を配合するので、発酵前の乳糖含量は高くなっています。発酵により乳糖は減りますが、製品中では牛乳と比べて大きく低減してはいません。なので、牛乳はダメでヨーグルトは大丈夫という結果をガラクトースのせいだとすることには無理があります。
ところで、日本人ではどうなのでしょうか。日本人を対象にした研究は少ないのですが、安心してください。乳製品摂取が多い女性では骨折リスクは低いが、男性は無関係と報告されています(Nakamura et al., Br. J. Nutr. 101: 285-294, 2009)。日本人は短足だからでしょうか?おっと、失礼・・・。