賞味期限
皆様は消費期限と賞味期限の違いについて十分ご理解されていることと思います(チーズの教本 2019 p183)。しかし、生活者の多くは誰がどのように賞味期限を設定しているのかご存じないのではないかと思います。
まず“誰か”というと、商品の製造者または販売者(両方をまとめて事業者と呼ぶことにします)が賞味期限を設定します。一般的には製造者が設定しますが、PB商品では販売者が、輸入商品では輸入業者が設定することもあります。
“どのように”については、その商品を消費者に提供する品質(おいしさ、栄養、安全性、機能など)について事業者が適正であると判断した期間を科学的な方法により決定し、その期間に安全係数(通常0.7~0.8)を乗じた期間を賞味期限としています。といっても、分かりにくいかと思いますので図をご覧ください。
“品質判定基準”は事業者がこのラインより上なら適正だと科学的な方法によって判断し設定したラインです。品質がこのラインを超えてから下回る時までの期間が“適正品質期間”です。しかし、常に適正な保存状態が保たれるとは限りませんので、安全係数を乗じた期間が“賞味期限”となります。フレッシュチーズなどでは製造直後(①)が最も品質が高く、時間と共に低下していきます。そして品質が③までの期間が適正品質期間で、②までの期間を賞味期限としているのです。しかし保存条件が不適切な場合、例えば遠方の店で要冷蔵の商品を購入し保冷剤がない状態で自宅に戻るまで何時間もかかったとか、購入した商品をテーブルに放置したままにした場合には品質の劣化が進みます。
一方、熟成タイプチーズなどの場合には製造後熟成を経て品質が上昇し、ピークを迎えた後に徐々に低下していきます。このような場合、①の品質より②の品質の方が高くなります。したがって、賞味期限が近くても決して品質が低下しているとは限りません。むしろその方がおいしいと感じる方も多いと思います。
賞味期限を設定する場合、科学的根拠に基づくことが必要です。“科学的根拠”とは理化学的特性、微生物特性、官能評価の3種類からなります。理化学的特性とはいろいろありますが、チーズでは硬度、水分含量、pHあるいは酸度などが一般的です。この他、チーズの種類によっては粒度、加熱延伸性、さける程度、塩分含量なども判定基準にする場合があります。微生物試験では一般細菌、大腸菌、ソフトタイプとセミハードではリステリア、プロセスチーズでは大腸菌群など法令が定める項目が基準となります。官能評価では味覚や香り、色などを事業者が定めた評価員が評価し点数化します。必要な項目を数値化し、最も短い数値から賞味期限を設定しています。例えば、微生物的には何も問題はないけど、水分値が低下しパサパサしてくるのでそうなる前までを適正品質期間とし、安全係数を乗じて賞味期限とする場合もあります。
では、賞味期限を過ぎた商品を販売することは法令違反になるのでしょうか?
答えは違反にはなりません。
だからといって賞味期限を過ぎたチーズを販売することは販売者としてのモラルを問われます。また、一般の消費者は賞味期限を過ぎた商品を購入しません。廃棄処分には多額の税金が投入されます。
さらに、昨年食品ロス削減法が制定されました。そのためお店は賞味期限が近づくと割引シールを貼り購入を促進します(図2)。私はそのような商品はお買い得と考え、しばしば利用しています。
賞味期限が近づいた商品を買い取る業者がいます。買い取った商品を再利用することは法令違反なのでしょうか?賞味期限を延ばしたシールなどを商品に貼りつけることはアウトです。しかし、例えばお菓子屋さんが賞味期限を過ぎたチェダーチーズを原料の一部として再利用する場合、お菓子屋さんが科学的に定め文書化している品質基準に合格していれば再利用しても構いません。但し、あくまでも社内基準に適合していることが前提であり、現場の職人さんが自分の判断で再利用することは認められていません。このようなルールは十分には理解されていない場合が多く、法令に違反していると誤解されることもチョイチョイあります。
商品はその品質を守るために包装しています。なので、開封すれば“品質を守る”という機能は失われてしまいます。チーズも例外ではありません。なので「開封後はできるだけお早めに召し上がりください」という常套句が書いてあるのです。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
ⒸNPO法人チーズプロフェッショナル協会
無断転載禁止