フロマGのチーズときどき食文化

フランスチーズの名前を探る

2018年10月15日掲載

フランスチーズの名前を探る

フランスチーズを語るときにしばしばテロワール(terroir)という言葉が出てきますね。これは簡単に訳せば気候風土というわけですが、チーズも造られる風土や環境の違いによって形や味が違ってくるというわけです。しかし南北に細長く四季がはっきりしている日本に住む我々にとっては、そんなことは先刻承知といいたいのですが、フランス人はそれだけではなく、出生地を明確にするため原産地名をチーズ名にすることにこだわっているように見えます。

カマンベール村へ0.3kmの標識

「チーズの教本」2018年度版で、フランスのA.O.P.(原産地名称保護)指定の45種類のチーズを調べてみました。フランスには日本のように集落を市町村名で呼ぶ制度がないので、勝手に村とか町と呼ぶようにしますが、45種類のチーズのうち、カマンベールのなどのように、地図上でチーズ名と同じ町村名が見つかったのは30個でしたが、そのほかコンテやカンタルなどのように地方名や県名などが付けられているものが12種類あり、残りの3つは方言や古語由来の言葉がチーズの名前になっているようです。
最も有名なカマンベール発祥の地といわれる集落は、グーグルマップで見ると教会を中心に家が数棟と、他にメゾン・ド・カマンベールという小さな施設があるようですが、日本でいう限界集落のようです。今回、チーズ名を頼りにその発祥の集落を地図で訪ねてみるとカマンベール村ほどでもないにしてもチーズ名発祥の地は小さな集落が多いようでした。

ライオル村の立派な雄牛の像

南仏から中央高地の古いチーズ、ライオルを生む同名の村へ続く道筋は、フランス一の過疎地帯で交通の難所といわれていたようですが、2004年に巨大なミヨーの吊り橋が出来てからは簡単に行けるようになったそうで、我々も難なく村に行きつくことができました。牧草地や林に囲まれた、この小さな村の広場にはこのチーズの象徴にもなっているオーブラック牛の大きな像が立っていましたが、村は森閑としており街中にはホテルは一軒だけ。しかし、村の近くにはライオルチーズのかなり大きな工場がありました。

ライオルチーズ

ここはご存知ライオル(ラギオルとも)ナイフの発祥の地でもあるけれど、近年個性的な三ツ星レストランの所在地としても知られるようになったようです。
もう一つ面白いのは、チーズが作られた集落名とチーズ名、そしてミルクを供給する動物の名が三者そろい踏みというのがあります。中央高地で造られるサレールなんかもそうですが、私が訪れたのは、スイスとの国境近くにあるアボンダンスです。今では製造エリアが広くなっていますが、この町で古くから作られているチーズがアボンダンスで、そのチーズに原料を供給しているのが、同名の顔が白い赤毛のアボンダンス牛なのです。

顔が白いアボンダンス牛

遠くモン・ブラン山群を望む高原の茶屋で、草原で草をはむアボンダンス牛の群れを眺めながらアボンダンスのチーズフォンデューを楽しんだのでした。翌日アボンダンスのチーズ工房を訪ねると、なぜかそこでは日本人の職人がたった一人でアボンダンスチーズを作っているのでした。熟成室に並んだ彼の作るアボンダンスは実に精緻で美しく、さすが日本の職人は違うなあと感心して、アボンダンスを後にしたのでした。

日本人が作ったアボンダンスチーズ