世界のチーズぶらり旅

スペイン北部の聖人の町から

2018年8月1日掲載

スペイン北部の聖人の町から

フランス国境まで20km余「ビスケー湾の真珠」などと言うキラキラフレィズで呼ばれるスペインのサン・セバチャンは、近頃はグルメの町として売り出している。今回のチーズを探る旅はこの町が起点となった。

ビスケー湾の真珠

旅の前にスペインの地図を買い旅のコースを調べていたら、この町の名の最初に「ドノスティア」という文字がある。はて面妖なと、さらに調べてみると、この町は1982にDonostia-San Sebastianが公式の町の名になったという。Donostiaというバスク語が入ったのだ。どちらも「聖人・セバスチャン」という意味らしい。1939年に成立したフランコ独裁政権はバスク語の使用を禁止した。しかしバスク人は密かにこの言葉を守ってきた。そして36年後の1975年にフランコが死去し民主化が進むとこの極小数民族の謎の言語もよみがえり、町の公式名になったのである。

ゲッケンハイム美術館

サン・セバスチャンはバスク州の首都である。バスク人といえばこの辺りに昔から住んでいた謎の民族で、その言葉はヨーロッパのどの言語にも属さない難しい言葉とされているのである。といっても日本人には馴染みが薄かろう。だが遠い昔そのバスク人の一人が日本人の心を動かした。サン・セバスチャンから南東に70kmほど行くとハビエル(Javier)という小さな村に城があり、そこで生まれたフランシスコ・ザビエルが、はるばる日本にやってきてキリスト教を伝えた。今回の旅のエリアにはそのザビエル城が入っていないのが残念であった。

花の犬 パピー

パリの空港で乗り換え、サン・セバスチャンの西方20kmにあるビルバオ空港を目指す。この町で昼食をとってからサン・セバスチャンに向かう手筈だったが、通り道にシュールな建築様式で有名な美術館があったので車を降りた。
その外観は写真の通りアルミで?できた城塞のような建築物だ。さすがにピカソ、ガウディ、ダリなどシュールリアリスティックな造形を得意とした芸術家を育んだ土地柄だ。この建築物の依頼者は「誰も見た事がない物」を作れと設計者にいったという。余談だがこの町の北西30km余りに、スペイン内戦中にドイツ空軍によって徹底的に破壊され、その惨状を描いたピカソの絵で有名なゲルニカの町がある。とはいえビルバオの町は平和で美しく、巨大なオブジェ風の美術館の前には高さ10mはあろうかという全身に花が植えられた子犬のパピーが鎮座していた。

10種類以上のパン

ビルバオから長年想い続けていたサン・セバスチャンのホテルに着いたのは夕方近く。チーズ探訪の旅は、どんな美しい町でも観光はせず単なる宿泊地になることが多い。それでも仲間達と短い夜の時間をバルの密集する旧市街の店をハシゴし、タパスだかピンチョスだかを楽しんだが、長時間のフライトの疲れが年齢と共にきつくなるので、早々に仲間と分かれ小さな美しい湾を回ってホテルに帰った。

翌朝一番にホテルの食堂に降りて行って驚いた。さすがグルメの町であるその料理の種類の多さにびっくり。数えてみると、ペストリーも含めたパン類がザッと27種、果物が10種。そのほかサラダ、スープ、オリーヴ、ナッツ等多数。そしてありました、好物のスペイン名産のハモンの類、その横には見た事もない北スペインのケソ(チーズ)が3種類美しく並んでいた。出発まで時間がない、何を食べるべきか大いに悩んだ朝であった。

ハモンとケソ3種