プロセスチーズの不思議 その2
前回はプロセスチーズ(PC)に用いられる乳化剤について説明しました(2018年4月20日)。前回お示ししたPCの製造工程をご覧ください。(図1参照)
黄色でマーキングしている加熱・撹拌工程にて、原料ナチュラルチーズ(NC)や乳化剤が混合されると粘度は下がります(下図参照)。
さらに加熱・撹拌を続けると粘度が上昇してきます。このように粘度が増加する現象を「クリーミング」と呼んでいます。
一般にミルクの分野では、生乳を放置しておくと脂肪が合一し表面に浮いてくる現象をクリーミングと呼んでいます。
では、PCの場合も脂肪が合一しカゼインmatrixから分離するのでしょうか。ところがそうではありません。クリーミング中に脂肪球は小さくなり、カゼインmatrixに安定的に分散します。脂肪球は浮上してこないのです。それなのに、何故クリーミングと呼ぶのでしょうか。どなたか、ご存じの方がいらっしゃったら是非教えてください。
クリーミング中に粘度が増加する理由については、脂肪球サイズが小さくなり均一に分散するためという考え方とカゼインのネットワークが強固になるためという考え方があり、詳しいことは分かっていません。恐らく、両方とも粘度増加に関連している可能性があります。オーバークリーミングの状態になると粘度が上がり過ぎるので、通常はその前に加熱撹拌を止め、充填、冷却します。
PCの製造には、原料にリワーク(あるいはプレクックと言う場合もあります)を加えることが一般的です。初めて耳にする方が多いと思いますが、PC製造では世界的に用いられている用語です。リワークとは製造終了時にパイプなどに残ったPCや包装したものの重量不足や包装状態が不良で商品にならなかったPCのことです。したがって、リワークの組成は商品となったPCと原則的には同じです。一般的にはリワークの添加量は製品重量の2-15%程度です。添加量が数%以内であれば、製品物性に大きな影響を与えないようです(Kapoor & Metzger, Comp. Rev. Food Sci. Food Safety 7: 194 – 214, 2008)。
リワークを添加する理由は、製品歩留を上げることの他に、PCの物性を一定の品質に調整するために重要な働きをしているためです。リワークの働きについては研究報告が少ないのですが、一般的には添加するリワーク量が増えるとPCは硬くなり、耐熱性が上がると言われています。しかし、一口にリワークといっても、採取された状況により様々です。製造終了後にパイプに残留していたものは長時間加熱されているし、製品重量不足などではじかれたものは規定通りの加熱となっています。また、リワークを再使用するまでの時間や保存状態により様々です。なので、長年の経験に基づいてリワークを添加しているのが実情です。
このようにPCは、その製造工程は単純なのに、まだまだよく分かっていない不思議だらけのチーズなのです。言い換えれば、各メーカーのノウハウがギュウッと詰まった商品なのです。そんなことに想いを馳せて召し上がってみてください。