世界のチーズぶらり旅

夏のモン・ドールを探る旅

2018年1月1日掲載

夏のモン・ドールを探る旅

いま、モン・ドールの季節

モン・ドール(Mont d’Or)といえば秋口から3月まで販売される季節のチーズである。近頃日本でも人気が高く、特にクリスマスに食べる人が多くなったようだ。フランスのジュラ山地で、搾乳量が減る冬季に酪農家が細々と自家用に作っていたのが、1980年の中頃にパリでブレイクし、やがて日本にもやってくる。が、1988年に衛生上の問題が起こりフランス政府は輸出を禁止。そのためにかえって日本では人気が高まったと記憶している。
今ではクリスマスが近づくと、どのチーズ店のショーケースにもモン・ドールが並ぶ。けっこうお高いチーズだが、しかしクリスマスの翌日から安くなるのでそこがねらい目でもある。このように世界的に知られるようになったモン・ドールだが、ある資料によれば、1960年代ではパリのチーズ商ですらこのチーズを知る者はおらず、パリでブレイクするのは前述の通り1980年代というから、チーズの世界ではまだまだピカピカの新入生だ。


さて、ここで表題の「夏のモン・ドール」について話を進めよう。断っておくが、夏のモン・ドールというチーズはない。夏のモン・ドールともいうべきチーズの話である。
少し前の事になるが、6月の末、フランスのピレネー山中に羊乳から作るオッソー・イラティの小さな工房を訪ねた。この辺りはバスク地方と呼ばれ、かつてはナヴァール王国の領土で、ブルボン王朝の創始者アンリ4世は、この国の王でもあった。近くのポーの町には王宮があり、城門の前にはアンリ4世の像が立っている。ピレネーのチーズを見たあと、ここからオーヴェルニュの古代チーズ訪ねるために北上するのだが、この道筋にヤギ乳から作る「夏のモン・ドール」ともいうべきチーズがあるというので、立ち寄ることにしたのである。

古民家風のチーズ工房

現在のフランスの行政区でいえばミディ=ピレネー圏である。この地域圏の首都であるトゥールーズからピレネーに向かって南下すると、間もなく岩山の上に小さな城があるFoixという川沿いの美しい町があるが、そのわずか手前のLoubèresという村、というより小さな集落のはずれにその工房があった。
外見は大きな古民家風の建物だったが、工房内の設備は近代的で清潔であった。若夫婦がこの工房を立ち上げて以来、長年これまでにない新しいチーズの創作に取り組んできたのだという。工房の裏手の小屋には、200頭余りの茶色いアルピーヌ種のヤギがゆったりと食後の反芻をしていた。

穏やかな午後のヤギたち

「夏のモン・ドール」とは、これらのヤギ乳から作られた新作「カブリ・アリエジョワ」というチーズの事なのである。写真のように側面にエピセアの樹皮が巻かれているあたりは、モン・ドールそっくりである。しかし、表皮をはがすとトロトロに溶けた生地は白くホワイトソースのような様相である。やや刺激的だが味は濃厚で、合いの手の素朴な田舎パンと食べると旨味が増幅するように思われた。熟成庫にはエピセアの樹皮を巻いた更に大型のチーズも眠っていたが、これが夏のモン・ドールであったかと妙に納得し、満ち足りた気持ちになって次の目的地を目指したのであった。

これぞ夏のモン・ドール
熟成庫に眠っているのは?