乳科学 マルド博士のミルク語り

近未来に登場するかもしれないチーズ

2017年12月20日掲載

世界中には様々なチーズがあり、中には少し変わった作り方をするチーズもあります(2017年11月20日)。大規模なチーズ工場では、連続式製造設備で生産されていますし、膜利用チーズなども製造されています。近未来的にはどのような技術で、どんなチーズが市場に登場するのでしょうか。新しい製造技術について世界中で研究開発が行われています。そんな中から、いくつか可能性を探ってみましょう。

健康志向型チーズ

本来、チーズは栄養素が豊富で、様々な健康効果が知られています。しかし、先進国では高齢化社会を迎え、さらなる健康機能を求めるニーズが高まっています。第一は、低塩・低脂肪チーズです。チーズはナトリウム含量が高い、飽和脂肪酸含量が高いなどの理由で、健康に関心の高い生活者は敬遠しがちです。普通に食べている限り、悪影響はないばかりか、むしろ好ましい結果が得られることが科学的に示されているのですが・・・。しかし、アメリカを中心に低塩・低脂肪チーズの開発が行われています。市販されている低塩・低脂肪チーズもあるようですが、やはり風味や組織がいまいちで、まだまだ改良の余地があります。第二がプロバイオ菌(腸に定着し、健康を向上させる菌)含有チーズの開発です。プロバイオ菌を添加したチーズに関する論文が多数発表されています。しかし、プロバイオ菌が必要であれば、それを含み、一定の菌数を保証したヨーグルトを食べればいいじゃん、ということになります。ホエイ中に菌の一部が逃げるチーズと違い、ヨーグルトでは添加した菌が逃げることはありません。ヨーグルトが苦手な生活者にとってはプロバイオ菌含有チーズが待ち望まれるかもしれません。

高温殺菌乳から製造したチーズ

チーズ乳を高温殺菌すると、レンネット凝固が遅れカード水分が高くなるために、一般的には高温殺菌は行われません。しかし、高温殺菌には有害菌の殆どを死滅させることができること、ならびにホエイたんぱく質がカゼインに結合するためにチーズの歩留が向上する、といったメリットがあります。一方、凝固が遅れる他、カードの組織や風味に課題があり、これらの課題を克服するための研究が行われています。例えば、高温加熱した乳からチェダーを作ると、旨味が増すが組織がボソボソになるとの報告があります(Guyomarc’H, Lait 86:J-20、2006)。また、UHT殺菌した乳から作ったカマンベールは満足できる組織であったとも報告されています。欠点を抱えつつも、その影響を低減する、あるいは発想を転換して欠点を逆に利用することも考えられます。今後は、さらに研究が進み、高温殺菌チーズ、あるいは高温殺菌チーズを利用したプロセスチーズやチーズフードが上市される可能性があります。

ホエイたんぱく質をチーズ乳に添加したチーズ

チーズを生産したときに得られるホエイは、環境汚染を防ぐためにそのまま垂れ流すことはできません。豚のエサにするとか、ホエイを濃縮・乾燥してホエイ粉末を製造します。これは菓子などの原料として需要があります。ホエイを濃縮してから高温加熱するとホエイたんぱく質が変性し凝集・沈殿します。しかし、強力な剪断をかけながら加熱すると微小な凝集体となり(脂肪球と同じような粒径)沈殿しません。このようなホエイたんぱく質をMPホエイと呼び、低脂肪チーズの脂肪代替として利用されています。脂肪のおいしさはありませんが、食感は脂肪を含むチーズと似ています。また、高温加熱によるレンネット凝固の遅れが短縮され、歩留も向上します。このようなチーズも将来登場する可能性があります。

Ready-to-eatなナチュラルチーズ

ナチュラルチーズを食べようと思ったら、冷蔵庫から取り出して食べる分だけカットし、残りをまた包んで冷蔵庫に戻さなければなりません。パーティやイベントの際には、チーズをカットするのに多大な労力がかかります。しかし、日本ではすでに6ピースにカットされたカマンベール、サイコロ状になったゴーダやチェダー、小包装されたさけるチーズ、粉末タイプや細切りタイプなどready-to-eatのナチュラルチーズが市販されています。まだまだプロセスチーズのようにはいきませんが、ナチュラルチーズを自由に成型する技術が開発されれば大変便利です。

このように、今後新しい製造技術が開発され、新しいチーズが登場してくるとチーズの市場はますます活性化されると思います。私たちも、新しい製造技術に注目していきましょう。(写真は「チーズフェスタ」で入手したReady-to-eatチーズの例)