表題の漢字はどう読むでしょうか。蕁麻疹(ジンマシン)のジンマでしょう?それ以外に読み方があるの?といわれそうですが、これはイラクサとも読みます。下の写真の様な植物で食用にもなり美味、と広辞苑にもありますが、日本人はあまり食べなかった。
イラクサはありふれた植物ですが、地味なので知っている人は少ないでしょう。太陽が嫌いなのでだいたいは林の中に群生しています。
種類は少しずつ違うけど、ほぼ全国に分布している。普通の野草ながらこの草のすごいところは人を刺す事です。漢字では「刺草」とも書きます。ヒスタミン系の毒があって刺されると痛くてかゆい。蕁麻と書かれる意味が刺されると分かります。皮膚が蕁麻疹状になりイライラする。今の言葉でイラつくのでこの名があるのですね。私の故郷北海道の森にはイラクサが沢山あってカイカイ草と呼んで、特に森に入る時は気をつけた。若葉が特に強烈でした。東京近郊にも沢山ありますが、あまり刺さないようです。ヨーロッパの北方の森にもあり食糧にしている。イラクサは麻の様な繊維が取れるので、北海道の先住民アイヌはイラクサの繊維で布を織っていました。最近では皮膚病や花粉症の薬草として注目されているようです。
イラクサの説明が長くなってしまいました。これからチーズの話です。今年の初めに発刊された「世界のチーズ図鑑」(柴田書店)のイングランドのチーズの中にヤーグ・コーニッシュ(Yarg Conish)というチーズが大きな写真入りで出ていました。1980年代の初頭にイングランドのコーンウオール州に住むグレイ(Gray)兄弟?が開発した新しいチーズですが、ネーミングが面白いのです。つまりGRAYの文字を逆からつづってYARGにし、コーンウオール人を意味するコーニッシュをくっつけてYarg Cornishにした、とあります。
このチーズは命名の話も面白いのですが外見が変わっています。チーズの表面にイラクサの葉を張り付けて熟成させるのです。熟成が進むと白いカビが出てきて美しい唐草模様ならぬイラクサ模様が浮き出てくる。植物の葉でチーズを包んだり張り付けたりする物は結構ありますね。栗の葉やカエデで包むもの、乾燥ハーブをまぶしたもの、イタリアにはキャベツの葉で包むものもあります。日本には笹や桜の葉を使ったもの、柏の葉で包んだものもあります。でもイラクサは珍しい。
先般イギリスへチーズの旅に登った折に、ロンドンの大きなチーズ専門店で見つけました。さっそく買ってきて試食しましたが、中身はやや黄色みを帯びていて、ねっとりと柔らかくクリーミイーでした。そして、イラクサの香りなのか独特の風味があります。
そのあとスチルトンを訪ねた時北部のチーズ店にもありました。写真のオジサンが持っているのが、そのヤーグ・コーニッシュです。新しいチーズなのに、結構広く流通しているようです。