フロマGのチーズときどき食文化

ジャガイモ(2)

2011年1月4日掲載

ジャガイモの話の続きです。前回では「馬鈴薯」という名を紹介しましたが、これは馬に付ける鈴に似ているこの名がつけられたとか。現在使われている「ジャガイモ」という名は1600年頃オランダ船がジャカルタ経由で日本に持ち込んだからとの事。

今回は料理の話でしたね。南米生まれのジャガイモがなかなかヨーロッパにっ普及しなかった理由はいろいろありますが、その一つは際立った味がないということでした。ゆでジャガを塩もつけずに食べてごらん。けっこう苦痛ですよ。しかし、この味のなさが料理素材として優れている事に気がつき始めるのです。味がないだけにどんな料理のも使える。特に肉類や油脂、バター、チーズなどと出会うとその真価が発揮されるのです。同じイモでもサツマイモは甘さがあるので料理の幅は狭くなるのです。

世界中で最も食べられているジャガイモ料理といえば油で揚げたジャガイモです。国によって呼び方が違う。イギリス名物、魚のフライについてくるのはchips。アメリカではfrench fries、フランスでステーキに大量についてくるのは略してpommes frite(ポム・フリット)と言ったりしますが、リンゴのフライではありません。日本で言うフライド・ポテトは和製英語だそうですよ。日本生まれのジャガイモ料理の傑作は肉ジャガですかね。

ジャガイモと出会って生まれたアリゴ

さて、ジャガイモがなければ生まれなかった料理がいくつかあります。フランスのオーヴェルニュ地方のアリゴ(aligot)、スイスのラクレット(raclette)、アメリカで生まれたヴィッシソワーズ・スープなどです。前の二つはチーズとの出合いで生まれた名品です。

アリゴはジャガイモの熱いピュレにトム・フレッシュというチーズを混ぜて溶かしつきたての餅のようにして、肉料理等の付け合わせにします。ラクレットは今ではかなり普及し東京でもラクレットを食べさせるレストランがいくつかあります。

さてジャガイモ料理で、アクシデントから生まれた物があります。その一つがポテト・チップスです。これは1853年8月4日(妙に厳密です)に、ニューヨーク州のあるレストランで生まれたそうです。ある富豪の常連客がフレンチ・フライの切り方が厚すぎると何度も突き返してくる。頭にきたコックがジャガイモを紙の様に薄く切って揚げたところこれが大受けして、やがて世界を席巻する商品になります。

もうひとつは、フランスで生まれたポム・スフレです。最初に作られたのが1837年。パリ郊外の列車の開通式で、招待客に料理を出すためシェフが時間通りに付け合わせのジャガイモを揚げます。ところが列車が遅れてジャガイモはすっかり冷えてしまった。仕方なくもう一度あげると。なんとジャガイモは風船のように膨らみ大喝采を博したということです。でもこの料理はとても難しいので見かける事はほとんどないのです。以前に試したところ3割位は膨らんだ。猛暑日でしたが2日かけ再度挑戦しましたが、戦果ははかばかしくなかった。暑い夏でした。

膨らまなかったポム・スフレ

見てください、この写真が、僅かに膨らんだポム・スフレらしき物です。本当はもっと盛大に膨らむ筈。ラルース料理百科辞典にはシュヴェルールという化学者が、百年以上前に様々な実験を行い必ず成功するための条件を示しています。そのやり方にそってやってみたのですが膨らまなかった。夏のジャガイモは、まだ水っぽく身がしっかりしていないからだろうと私は結論づけました。失敗の話で申し訳ない!秋にはもう一度挑戦します。