世界のチーズぶらり旅

サルデーニャ周遊(2)

2013年8月1日掲載

サルデーニャは花の島

晩春のサルデーニャ。南端の都市カリアリから北上すると、しばらくは樹木も少なく枯野もところどころに見えていたが、中部を過ぎるあたりから緑が多くなり、コルク樫やオリーヴの林が見えてくる。そして道端には赤、白、黄、紫など色とりどりの花。道路の側溝沿いに列をなす真紅のヒナゲシ、そしてクローム・イエローのエニシダは南欧特有の風景だが、このあたりは小さな草花がとても多い。ゆるやかに波うつ丘陵地の草原の花叢には白い羊の群れが放たれている。サルデーニャは羊の国である。

北部の美しい町

3千年もの昔、西アジアあたりからこの島に来て定住したとされる、先住民のヌラーゲ人は牧羊の民だったとされているが、数千個もの石積みの遺跡ヌラーゲを残し、時代と共に他民族に圧倒されていくのである。しかし、今も戦う牧羊民としてその気風が残っているという。20世紀の中頃まで、羊飼いの男たちは放牧の季節になると、石と木でできた山中の粗末な小屋に寝泊まりし羊たちと過ごした。島の道路を走っているとしばしば羊の群れに出会う。車を止めて車道を横断して行く群れにも出会った。

羊さまのお通り

サルデーニャ島には深夜に着いたが、翌日早朝、北部の町カリアリを目指して北上していったが、通過する町や村はどれも少しずつ違いそれぞれ特徴がある。古代にはフェニキア、ギリシャ、ローマ人が来て町を建て、中世にはムーアー人の海賊が現れるなど、たくさんの民族が往来し定住した。そのため様々な文化が入り混じった村や町ができた。変化に富んだ風景の中に、個性的で美しい村や町が次々と現れて旅人を楽しませてくれる。

ペコリーノ・ロマーノの製造

少し余談になるが、サルデーニャには島の旗(紋章)があるが、そこには十字架に仕切られた四隅に鉢巻をした四人の男性の横顔が描かれていて、土産物などにも印刷されているユニークで印象的なデザインだが、なぜイベリア半島を占領し、サルデーニャやコルシカに海賊として現れたムーアー人の顔なのか。残念ながらそれを書くスペースがない。

羊の国のチーズといえば当然羊(Pecora)の乳でつくるペコリーノが主流である。イタリアにはペコリーノと呼ばれるチーズは無数にあるが、DOP(原産地名称保護)の認証を受けたもの中にはペコリーノ・トスカーノ、ペコリーノ・ロマーノ、ペコリーノ・サルド、ペコリーノ・シチリアーノなどが広いエリアの産地名を明確に名乗っているチーズがある。その中で最も有名なのが主都ローマのあるラッツイオ州でつくられていたロマーノである。

20世紀の初め頃、このチーズに馴染んだ人たちが新天地アメリカに渡り、やがてロマーノを輸入し始めるが、大型で塩味の強いロマーノは輸送にも耐え品質もさほど変化がないため、急激に輸入量を伸ばす。このため生産量を確保するため生産地をサルデーニャ島全域に拡大していったのである。今ではペコリーノ・ロマーノの大部分はサルデーニャ産だという。

長期熟成のペコリーノ・サルド

日本であれば産地偽装と騒ぐ人もいるかも知れない。しかも、この島にもペコリーノ・サルドとフィオーレ・サルドという自前の立派なDOPのペコリーノがあるのだ。しかしこの島の工房を見た限り自前のチーズも作っていたが、ロマーノが圧倒的多いのである。プライドの高いサルデーニャの人はどう思っているのか。これもイタリア的なおおらかさだろうか。法的にも認められているので他国の者がどうこういっても始まらないのだが。しかし、工房で出されたペコリーノ・サルドのマトゥロ(Maturo=長期熟成)は絶品であった。