世界のチーズぶらり旅

サルデーニャ周遊(1)

2013年7月1日掲載

エニシダ咲くサルデーニャの道

ローマ空港への着陸態勢に入った時、窓からちらりと見えた地中海は濁流のように泡立ち、白波が無数に立っていた。相当に強い風が吹いているようだ。飛行機は無事着陸したが機内を出ると予想通りかなりの強風だ。それにもう6月というのに寒い。

 

遺跡の上からの眺望

21時25分発サルデーニャの南部のカリアリ行きは一時間遅れで離陸。45分ほどでカリアリ空港に着くも、ここも強風。機体は左右に大きく揺れながらもどうやら無事着陸。目の前にいた大男のキャビンアテンダントが着陸と同時に大きく拍手し、これは大変難しい着陸だったといったのだが、ともかくも無事サルデーニャの地を踏むことができホテル到着は深夜12時に近かった。

サルデーニャ西部の地中海

日本人にはあまり馴染みのないサルデーニャ島は、地中海では2番目に大きな島だが、面積は四国より少し大きいくらい。地中海の真ん中に位置するため、古代より様々な民族が行き来した。今から3800年ほど前に栄えたヌラーゲ文化は特有の石積みの建造物で知られているが、全島に7千ものヌラーゲがあるという。我々の目的はチーズ探訪の旅ではあるが、サルデーニャを代表する遺跡の一つくらいは見なくては、という事で、翌朝時差ボケと寝不足を抱えて高速道路を北上。途中で山道に入りバルミーニという所にある世界遺産のヌラーゲを見物した。思ったより規模は小さく、単に巨大なゴロタ石を高く積み上げただけのように見えるが、どうやってこれを積み上げたのかという感動はあった。内部の通路はモグラの穴のように狭く屈折していて、上るのに手間取ったが、頂上からの眺望は絶佳で、近くにはピラミッド型の遺跡も見え、広い草地のあちこちに羊の群れが見えた。そう、我々はサルデーニャにペコリーノ(羊乳チーズ)を探しに来たんだ、と羊の群れを見て我に返ったのだが、一日目は日曜日だし、翌日のチーズ工房を訪ねる拠点となる北部の都市サッサリにはその日のうちに着けばいいので観光旅行も仕方ない。だがテンションは上がらない。

サルデーニャチーズの試食会

チーズ探訪の旅での遺跡見物は続く。次は西海岸のシニス半島にあるローマの遺跡をさらりと見物。岬ではまだ波が荒い地中海の碧さに眠気を晴らしてから、付け根の町オリスターノという小さな町でやっとサルデーニャのチーズに出会うことができた。長い歴史の中でたくさんの民族が移り住んだサルデーニャは、田舎の小さな町もそれぞれ特徴があって美しい。オリスターノという町のホテルでは、昼食の前にサルデーニャのチーズとワインが用意されていた。最初のチーズの試食である。

サルデーニャ伝統のパン

大きな銀盆にはペコリーノ・サルドらしきチーズを中心に、青かびの入った羊乳チーズ、そして巨大な三つ編みのパスタ・フィラータと何やらチョコレートらしきものがサンドイッチされた新作チーズがあった。合いの手のワインはサルデーニャ特有の葡萄であるカンのナウ・ディ・サルデーニャとヴェルメンティーノ・ディ・サルデーニャの二つのDOCワインである。私はチーズに添えられていたせんべいの様なパンに目が止まった。これこそが、サルデーニャ特有のパンで、長持ちするように紙のように薄く焼かれた、パーネ・カラザウ(Pane carasau)ではないか。かつて、羊と共に長期間山野を渡り歩く羊飼いのためにつくられ、牧夫のパンと呼ばれた伝統的なパンである。土地の人達はこのパンを料理の素材などいろんな方法で食べる。日本を出て以来、久しぶりにゆったりした時間を過ごすことができ、同行の仲間たちとおしゃべりを楽しみながら、この先の旅路に誰もが期待を膨らませていた。その日はまだ日の高いうちに、今夜の宿である北部の都市サッサリに到着。気温は低かったが天気がよく初日から快適なドライヴであった。