世界のチーズぶらり旅

バイエルンのブルーチーズ

2013年2月1日掲載

ミュヘンの市場で見つけたハーツァー

ヨーロッパの国々でチーズの生産量が最も多い国といえば実はドイツである。しかし、ドイツには伝統的なオリジナルチーズは少ない。その理由はといえば筆者の推測だが、2千年前ヨーロッパを征服し大帝国を建設したローマにゲルマン民族は最後まで抵抗し、ローマ化されなかったからであろう。当時のローマの兵士の一日分の食糧の中に2gのチーズが入っていたほどで、当時ローマ世界ではチーズは広く普及していたが、ゲルマン民族は中世にいたるまでローマの食文化の影響を受けることは少なかったと思われる。しかしゲルマン人はヨーグルトに近い酸乳系のチーズを持っていたことは、ローマの武将カエサルの「ガリア戦記」にも見える。これが現在大量に消費されているクワルクの原型かと思われる。中世になってやっと修道士がチーズを作り始める。当時ゲルマン諸国と国境を接する現在のフランス、スイス、オランダなどは既に独自のチーズを持っていたが彼らはこれを手本にしてチーズを作り始める。したがってドイツのチーズはこれらの国の影響を受けている物が多いのである。

美しいバイエルンの牧場

ドイツから日本に輸入されている人気のブルーチーズがある。南ドイツのバイエルン地方で作られるババリアブルーである。表面には白カビを繁殖させたもので、現代のドイツの技術が作り出したおしゃれなチーズといっていいだろう。


 

オモチャのようなWagingの町

ある年の晩秋に、ミュンヘンの東にあるこのチーズを開発した工場をたずねた。出発前にミュンヘンの朝市のチーズ店を回ったが、周辺諸国のチーズに交じって見たことがないアイデアチーズがたくさん並んでいたが、その中にこれはドイツのオリジナルと思われるチーズを見つけた。日本のユベシの様なテクスチャーのハルツアー・ケーゼである。試食したがかなり塩辛い。これはビールを飲むときに食べるという。

アルプス山麓の美しい村

ドイツのバイエルン州の南部は牧場が多く、草地には薄茶色の斑点があるバイエルン牛が群れている。ドイツの民家はどっしりとしていて美しく、こちらの感覚で別荘かと思うような家が畜舎を併設した農家だったりする。森を抜け曲がりくねった道をゆくと、ところどころにネギ坊主のような教会の塔が見え小さな村が現れる。 ミュンヘンから東に50キロ走ったあたりの小さな湖のほとりにWagingという、オモチャのような町があった。ここにババリアブルーを開発した工場がある。その工場を訪れて驚き失望した。それは徹底した近代工場で、工場の中はピカピカに磨かれたステンレスの機械やタンクやパイプのジャングルで、カメラを取り出す気さえ起らなかった。ここで撮った写真はたった一枚だ、あとは案内人の説明を聞くだけだった。

霧が晴れて山現る

同社の商品のパッケージを見るとアルプス山の絵がデザインされている。意味を問えばこの山からは塩が取れ、当社のチーズはこの山の塩を使っていますという事だった。ろくな写真が撮れなかった我々は、その山を見にゆくことにし地図を見るとザルツブルクの南方30kmにあるWatzmannという標高2700m程の山である。美しい田舎道を走って山に近づくと、霧が出てきて周囲が見えなくなった。仕方なく谷を隔てて山を望むあたりのカフェでコーヒーを飲んでいると、にわかに霧が晴れ、谷あいの村の向こうに、日本の八ヶ岳に似た山が雲間から現れた。