フロマGのチーズときどき食文化

チーズをおいしくする塩の力

2015年2月15日掲載

チーズ用の特別な塩

突然ですが、ソースとサラダとサラリーマンは兄弟です。いえいえ駄洒落なんかではありません。真面目な話です。語源が同じなのです。ソースはラテン語のsal(塩)が転じてサルサになりソース(sauce)になりました。またサラダもやはりsalから派生したSalsaに由来するといわれ、塩を振りかけた物くらいの意味から来ているとか。最後のサラリーマンは和製英語ですが、サラリーの語源はやはりsalで、ローマ時代、当時貴重だった塩を兵士たちに支給したとか、塩を買うための俸給を与えたとか諸説ありますが、これをサラリウムといい、そこから給料の事をサラリーというようになったそうです。

さて、塩はもちろん人間の体に必要なもので、塩がなければ生きていけません。特にカリウムの多い野菜類を多食するときにはナトリウム(塩)は必要です。かつて野菜を沢山食べてきた日本人は塩も多くとる習慣があり、そのため食生活が変化した今は塩分の取り過ぎが問題になっているのです。また塩には清める力があるとされ、神事などにも使われてきました。土俵に塩をまいたり、店先に盛り塩するなどの習慣が残っていますね。

パルミジャーノの塩水浴

古代より人は塩を使って様々な加工食品や調味料を作ってきました。ギリシャからローマ時代に欠かせなかったガルムという調味料は青魚の内臓を塩漬けにして太陽にさらして発酵させた魚醤で、これを何にでも振り掛けて食べたといいます。これに似た物は日本では秋田のショッツル、能登のイシルがあり、東南アジアにはナンプラーなどがあります。

日本の代表的な調味料の味噌や醤油もまた塩の力を利用して作られるものですね。塩の殺菌力を利用して保存性を高めたり、塩分濃度により有用菌を選別し繁殖をコントロールするなど、人類は何千年もこの塩の力を上手に利用し食事を豊かにしてきたのです。

最後にチーズと塩の関係を話しましょう。チーズにはもちろん塩は重要ですが、チーズにとって塩は単なる味を付けるだけではありません。固いリンド(皮)を作ったり発酵や熟成を調整するなど多くの役割があるのです。従って、チーズのタイプによって加塩の仕方が違ってきますが、塩を直接原料のミルクに加えることはありません。一部を除きのチーズの形が出来上がった段階で加塩するのです。大きくて固めのチーズは濃い塩水に一定期間浸して所定の塩分を浸透させる場合と、塩水に浸した後棚に並べて表面を塩水を含ませた布で拭いたり、ブラシをかけたりして塩分を中にしみこませる方法をとります。

ロックフォールは乾塩を使う

固いチーズはそれほど塩味は強くないのですが、一部のブルー系のチーズは塩辛いですね。よくロックフォールはしょっぱすぎという意見を聞きますが、確かにこのチーズは4.5%と、かなりの塩分がありますが、これより少なくとも多くても発酵と熟成がうまくいかないのです。塩分と発酵や熟成との関係はとても微妙で、チーズ全体に所定の塩分濃度をいきわたらせるのは職人の優れた感覚と高度な技術が必要なのです。

スイスのスブリンツの加塩

塩がなければ美味しいチーズはできません。聖書にこんな言葉があります。「いつも、塩で味つけられた、やさしい言葉を使いなさい。」塩は時として強く、時としてやさしく語りかけてくるのです。