寒風が吹きすさぶと海のミルクは甘くなる。カキの季節ですね。日本にはカキ料理は沢山ありますがこの季節にはカキ鍋やドテ鍋など冬の料理の出番です。世界のカキ生産量で五本の指に入る日本では、カキは生で食べるより加熱して食べる方が多いけど、カキ大好きのフランス人のカキの食べ方とは正反対です。フランスではカキは殻を開けてすぐそのまま食べる。冬になれば、お店やレストランの前に殻つきカキの箱が積み上げられその場で開けて食べさせてくれます。レストランのメニューを見るとカキは大きさによって0~5番までランク付されていていますが、これは数字が小さい方ほど大きくそれによって値段が変わります。写真はパリの有名なレストランDÔMEのカキのメニューですが、高級品を産するブルターニュのカキを載せていますが、注文は半ダース(6個)単位になっていますね。この店では00番という特大のカキが載っています。
「18世紀パリ生活史」(岩波文庫)にはパリではすでに生ガキが盛んに食べられていたと書かれています。当時はカキを街頭でむいて食べさせるのは女性だったそうで、一度に何ダースも食べる人がいた。現在ではエカイエと呼ぶカキむき専門の職人がいて寒さに強いサヴォワ出身の男が多いとか。以前にパリでカキを食べた時、片側に刃がある小さなフォークがついきたのですが、これで下側の貝柱を切って食べる、という事はフランスでは下の貝柱は切らないのが普通なのか。このフォークも「パリの生活史」にも出てきますから200年以上前からあったんですね。日本のオイスターバーとやらでは、殻つきカキは貝柱を切り、身を取り出して真水で洗ってから殻にのせてくるのでカキはすでに死んでいます。フランスでは殻の中の汁はこぼさないように殻に口をつけ吸ってから、まだ生きているカキを飲み込むのがたまらないといいます。
まだ鉄道のなかった時代、カキは大西洋岸からパリまで馬車で運ばれてくるから死んでしまうものもあったでしょう。当時パリのグルメ達は食あたりの恐怖にもめげず、お金持ちや貴族達も生ガキを大量に食べた。文豪バルザックは一度に100個食べたという話は有名です。フランスのカキはノルマンディやブルターニュなどの潮の干満の差が大きい所で育てられます。従って一日に何時間か太陽にさらされて育つので、殻を閉じる力が強いので長持ちしたんだそうです。そのかわり素人が殻を開けるのは難しく、そのためカキむき職人がいるのです。フランスではむきガキなどは売ってないから、カキが食べたければレストランへ行くか魚屋などの店頭で開けてもらって家に持ち帰るしかないのです。
17世紀のフランスの沿岸では天然のカキは乱獲され絶滅寸前までいきます。以来養殖が主流になりますが、しかし20世紀の中頃フランスのカキに病気が蔓延し、またもや絶滅の危機に瀕します。それを救ったのが病気に強い日本の真ガキでした。宮城県の種カキが航空機でフランスに運ばれたのです。現在ではフランス特産の平ガキは僅かで、出回っているのはほとんどがフランスの海に適応した日本の真ガキなのです。パリの魚介料理を出すレストランなどのメニューには「海の果実=Fruit de la mer」というのがあり、カキやその他の貝やエビなどを盛り合わせたものが黒パンと一緒に出てきます。仲間を募って少し奮発すればかなり豪華な盛り合わせになる。これは楽しいですよ。
さて、世界一有名なカキ料理は百年以上前にニューオリンズのレストランが考案したオイスター・ロックフェラーという料理でしょう。この料理が有名になると発明者を自称するレストランが多く現れ様々なレシピが生まれますが、基本的にはカキの殻焼きグラタンです。ネットにも何百というレシピが載っていてチーズを使った物もあります。試しにつくってみたのがこの写真。手間のわりにあっけなく胃袋に消えてしまいました。