フロマGのチーズときどき食文化

ブイヨンに浸したパン

2013年11月15日掲載

パンを抱えて歩く人

パンのおいしい国といえば私はフランスをあげます。初めてフランスに渡りパンを食べた時の衝撃は忘れられません。皮はパリパリの本物のバゲット、バターが紙袋ににじんでくるクロワッサン。それにバゲットを抱えて町行く人は絵になりましたね。パンとチーズとワインは人類が発明した最も古い加工です。人類は最初穀類などをお粥にして食べていた。そのお粥がたき火のそばの熱い石の上にこぼれ、焼けたものが最初のパンだという事です。高度な古代文明が花開いたエジプトやメソポタミアでパンはすでに日常の食べ物でした。それがギリシャ、ローマへと伝わりパンはヨーロッパの人達の主食となるのです。しかし今の様な洗練されたパンなったのはつい最近の事です。それまでは製粉技術も悪く、何日分もまとめて焼かれていたので、パンはいつも固かった。フランスのパン・ド・カンパーニュ(田舎パン)にその片鱗を見る事ができますが、これでも昔から見れば随分洗練されているそうです。そんな訳で、昔の人は固いパンをスープに浸して食べた。だからSoupeとは、もともと「ブイヨンに浸したパン」の事を云ったと辞書に出ています。

今も人気のアンパンの元祖

ヨーロッパの人達にとってパンは日本人の米と同じ。日本で米騒動が起こったように、フランス革命前夜、民衆がヴェルサイユ宮殿にパンよこせ!とデモをかけた。その時王妃マリー・アントワネットは「パンがなければブリオッシュを食べればいいのに・」とのたまった。そのマリー・アントワネットがクロワッサンをフランスに伝えたといいます。かつてウイーンがトルコ軍に包囲されていた時早起きのパン屋が早朝、敵がトンネルを掘る音を聞きつけ通報しウイーンは陥落を免れた。パン屋は褒美としてトルコ国旗の三日月を模したパンの販売権を与えられクロワッサンが誕生したというのです。でも近頃のクロワッサンは三日月形ではない。まっすぐです。どうしてでしょか。

今も人気のアンパンの元祖

日本にパンを最初に持ち込んだのは16世紀の中頃種子島に来たポルトガル人でしょう。日本でのパンという呼び名はポルトガル語のpaõnからきたという説が有力です。でもパンが一般家庭に浸透するのは第二次世界大戦後十年程たってからでしょうか。しかし日本在住のフランス人の証言によれば、現在東京にあるパン屋さんの何軒かはフランスで勝負できるパンを焼いているそうです。それに日本のパンの種類はフランスよりはるかに多いとか。お菓子とパンの境目がなく次々に新製品が現れる。そんな中で百年以上売り続けられているパンがあります。1874年に木村安兵衛が考案したアンパンです。このパンにはおへそがあってその中に塩漬けの桜の花が入っている。今も銀座の木村屋で買えます。

ウエールズの兎というチーズ料理

そこで突然ですが、日本でのチーズとパンの関係ですが、大手スーパーのチーズ売り場を回ってみて、日本人が最も多く食べているチーズ料理はチーズ・トーストであると確信したのです。なぜなら、売り場の大半が食パンサイズにつくられたスライスチーズで、しかもとろけるスライスという商品が大部分なのです。パンとチーズの出会いはヨーロッパでは当たり前ですが、チーズ・トーストの元祖は多分イギリスのウエルッシュ・ラビットでしょう。この料理はチェシャーなどのチーズをビールで煮溶かし、パンにのせてオーブンで焦げ目をつけた物。ウエールズでは狩りで兎が捕れなかったときに作ったとか。ウースター・ソースで味付けするのがミソです。