Instagram  Instagram

English

ダンチェッカーの草食叢書

第32回 農場に暮らす少年たち

2025年8月10日掲載

農場で暮らす、というとどのようなイメージを持つでしょうか。
絵本や小説には多くの「農場」が登場し、読者をひきつけます。その場合は、作物の栽培と家畜飼育など多角的な経営を行う中規模の農家が描かれることが多いようです。決してのどかでのんびりした生活というような幻想ではなく、自然と密着したきびしくも生命に満ちた暮らしにあこがれを感じるのです。

『農場の少年』

『農場の少年』(恩地三保子訳 福音館書店 1973、こだまともこ・渡辺南都子訳 講談社 1985 など)は、ローラ・インガルス・ワイルダー(1867-1957)の『大きな森の小さな家』に始まるシリーズ作品のひとつです。シリーズはアメリカ西部開拓時代、ローラを中心としたインガルス一家の物語です。本作は例外的に、のちにローラと結婚するアルマンゾ・ワイルダーの少年時代(8~9歳)を主人公とした、いわゆるスピンオフ作品です。
ニューヨーク州北部マローンの冬は雪深い農場で、末っ子アルマンゾはウシやウマの世話をひとりでできるようになりたくて、失敗しながらも徐々に父親に認められていきます。地域の有力者である父の豊かな農場でのこと、ローラの家とは違っておいしそうな食事が再々登場します。アルマンゾがバターを造り終え、マグカップいっぱいのバターミルクを飲むというのもじつにおいしそうです。

『小さい牛追い』『牛追いの冬』

『小さい牛追い』『牛追いの冬』(石井桃子訳 岩波少年文庫 1950、1951)は、自身も農場で暮らしたマリー・ハムズン(1881-1969)によるノルウェーの農場一家の物語です。長男オーラ10歳と次男エイナール8歳は、競いあい、張りあいながら、共に家の仕事を手伝ったり遊んだり。一家は夏になると村じゅうのウシやヤギを預かって山の小屋で生活し、二人は毎日交代でさらに山の上まで放牧に出かけます。スイスの『ハイジ』『ウルスリ』のような、小規模な山岳移牧の生活です。
無茶をする子供たちにハラハラし、叱らず見守る大人たちに感心しつつ、オーラたちの気持ちが伝わってきて自分も元・子供であることを思い出させられます。山で出会った謎の少女インゲルをオーラが救うことになったラストシーンで、彼らの成長に喜びと一抹の寂しさを感じながら本を閉じることになります。

『農場にくらして』

『農場にくらして』(上條由美子・松野正子訳 岩波少年文庫 2000)は、作者のアリソン・アトリー(1884-1976)の自伝的な物語です。幼少期を過ごした英国ダービーシャーの丘陵地帯での暮らしが、少女スーザン9歳を主人公として描かれています。
スーザンが暮らすのは300年以上前から代々受け継がれてきた古い農場で、4マイル(約6.4㎞)先の学校まで深い森を通り抜けて通っています。森には意思のある何ものかの存在が感じられ、木々や草花、月や星、家では部屋や古時計などが語りかけてきます。しかしそのことは大人には話さず、恐れやよろこびとともに季節の変化を感じて暮らしています。感受性豊かな子供の、いわばアニミズム(すべてのものに霊性を見出す思想、精霊信仰)的な感覚といえるでしょう。日曜日には教会に行きお祈りをしますが、聖書の教えと自分の感覚とのはざまで無意識のうちにバランスをとっているように思えます。毎日の搾乳や集乳会社の倒産という事件も興味深いのですが、圧巻は乾草の収穫と豊作の喜びに満ちた感謝祭です。

三作とも、機械化される以前のきびしい生産現場に暮らす子供たちを描いていますが、動物たちとの生活や農業生産には今も変わらないよろこびがあることと思います。「農場」での生活は、都市で生活する者のあこがれであり続けるでしょう。