1970年代以来、筆者は毎年のようにヨーロッパのチーズを求めて旅をしてきた。チーズは、まずはその国々やその土地のテロワール(土地の個性)によってチーズの形や大きさが決まってくるが、フランスの豊かな風土は、無限といっていいほどの個性豊かなチーズを生み出してきた。
これらのチーズに出会う前の若造だった筆者は、ヨーロッパのチーズを制覇するぞ!などとほざいて、まずは、世界一のチーズの国であるフランスのチーズの市場に向かった。
だが、現地に到着するとすぐに、想像をはるかに超えるこの国のチーズの世界の壮大さにびっくり。これは無理だなとすぐに素直な?青年に戻ったのである。
それからほぼ半世紀かけてフランスを中心に単身で、時には仲間達と毎年のようにチーズの旅にでた。そんなわけで半世紀かけて撮りためた何十万点もの貴重な映像が今も眠っている。今回はそんな中から普段あまり目にできないチーズを紹介する。
少し古い資料だけれど、パリ市全体には12か所の食料品店街があり、常設市場は16か所、そして、48か所では、それぞれ決められた日に露天市が開かれるという。今回紹介する写真はそのような市場を何年もかかって撮ったものである。そんな中から、パリの普通の店ではあまり見かけない変なチーズを紹介しよう。
地元の人達が毎日通う市場だから、ラベルもないチーズも多く冷蔵庫などには入れず、昔は木製の台にじかに並べていた。現在は衛生管理が厳しくなり、露天市も以前と比べると、とても清潔になったようだ。今回紹介する写真は30年前に撮った物もあるので、その点は露天市の歴史の写真としてご覧いただきたい。
①の写真はチーズの不良品の捨て場かと勘違いされそうだが、このようなチーズの愛好家が居るのかパリの露天市場ではよく見かけた。
けれど、原料の乳種は羊乳かヤギ乳かなどはプライスカードのようなものは付いていないので我々には全くわからない。だが愛好家たちにはすべてがわかっているのだろう。
②のチーズはラベルにEstrelaとあるからスペイン製のチーズのようだが、辞書を引いても答えが出なかった。チーズの表面にはオリーヴ油が塗られ、ラベルはその上にのせてあるだけだった。
③は全体がピンクと黄色に色付けされ異様な感じがするチーズだが、右のピンクのチーズはトマトの果汁が混入されているようだが、どんな味がするんだろう。左側の黄色いチーズはプライスカードにはpimentと書かれているから黄色いピーマンで色付けしたのだろか。
④のチーズは何で色付けしているのだろう。プライスカードを探して名前を知ろうとしたけれど、その手掛かりになるようなものは何もなく、売り子もいなかったので、ここは売り場ではなく倉庫の中を歩いている気分になった。
⑤最後のチーズは思わず「なんだこりゃ!」と叫んだチーズです。後ろの黒板に書かれた文字もわからず、これって本当にチーズだろうか、という不安が募るフシギなチーズだった。
今回はチーズ市場で出会った不可解なチーズを選んで紹介したけれど、チーズ探訪の旅は幸せばかりではない。このような市場では、我々が知っている普通のチーズなどはあるわけがないと、悟った?のであった。チーズの淵は無限に深い。
いつも朝市などの露天市の写真を撮るときは、必ず朝一番に行く。陳列されたチーズの前にお客に立たれると撮影できないし、きれいに並べられたチーズが一個でも買われて隙間ができると写真にならない。というわけで、露店市などは、場所などをしっかり調べ、朝早く開店直前に現場に行くようにしている。筆者は長年このようなチーズの旅をずっと続けてきたのである。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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