フロマGのチーズときどき食文化

カメラが探ったチーズ造りの現場(10)

2022年3月15日掲載

(10)熟成 ②

 前号では小型で柔らかいチーズから大型のハード系のチーズなどを紹介しましたが、これらは、ヨーロッパ北部のチーズとしては比較的オーソドックスなタイプのもので、日本でもお馴染みのチーズが多かったと思うけれど、今回は、ちょっと変わったチーズの熟成状況を紹介します。

①:生まれたてのチーズに木炭粉をまぶす

 ずい分昔の話になるけれど1964年のオリンピックや1970年の大阪万博を機に、日本にヨーロッパ・ワインのブームが来ます。そして、その後しばらくして、フランスやイタリア産のチーズを中心にしたチーズのブームがやってきて、チーズの学校ができたりする。その頃に、筆者はフランスのロワールとノルマンディ地方をめぐる本格的なヨーロッパチーズ探訪の旅に出るのです。写真①がその時最初に訪れたロワール地方のシェーヴルの工房です。初めて訪れた山羊乳チーズの熟成庫には驚きました。中には、おばさんがいて今朝生まれたばっかりの真っ白いチーズに、無残にも真っ黒な木炭の粉を振りかけているのです。こんなチーズもあるんだ!とびっくり。この熟成庫には同じく木炭粉をまぶしたセル・シュル・シェールやヴァランセなども眠っていたので熟成庫の中は真っ黒でした。

②:レースを巻いて熟成するスペインのチーズ

 次は日本では全くなじみのない、イベリア半島西側の変わったチーズを紹介しましょう。まずはスペイン西部のポルトガルと国境を接するエストレマドゥーラ州のチーズです。この地方には樹木などはあまり生えておらず見渡す限りの草原が続いています。こんな環境では飼える家畜は羊だけだからチーズも当然羊乳製のチーズばかりです。写真②はそんな大平原の中にあるチーズ工房で撮った羊乳製のトルタ・デル・カサール(Torta del Casar)というソフト系のチーズの熟成庫ですが、それが、写真②のように、なんとチーズの側面に真っ白いレースを巻いて熟成棚に並べているのです。お洒落でしたね。熟成期間は60日ほどですが、レースが汚れてくると取り換えるそうです。

 次に紹介するのは大西洋沿岸の国ポルトガルのチーズですが、日本ではこの国のチーズは全く知られていません。ご存知のように、日本に最初に来たヨーロッパ人はポルトガル人でした。そしてパン、コップ、ボタンなどを始めテンプラ、シャボン、バッテラなどたくさんのポルトガル語を日本に残した、とポルトガル大使館がホームページに記しています。筆者もポルトガルについては、ポルト酒は知っていたけれど、チーズは全く知らなかったので大口は叩けません。

③:チーズを洗ってお色直し

 さて、ポルトガルでは他のヨーロッパの国々同様に多種類のチーズが作られているといいますが、国内の消費量が多いのか、他のヨーロッパ諸国にさえ輸出はしていないとの事。当然日本では見られないので、これは出かけていくしかない。というわけで仲間たちとポルトガルに旅立ったのですが、誰もがこの国のチーズに関する知識はほとんど皆無でした。しかし、みな新しいものを知る期待に胸を膨らませて旅立ったのでした。写真③はポルトガル北部のエストレーラの山地で作られているポルトガルを代表するD.O.P.認証のチーズ、ケイジョ・セーラ・ダ・エストレーラの小さな工房です。さほど高くない山脈のなだらかな山中に女性の職人が3人だけという工房があり、そこではヒツジを飼いこのユニークなチーズを作っていました。このチーズも側面に長い布を巻き付けて熟成させるタイプでした。

④:すっかりきれいになって熟成庫へ

 ③の写真は熟成中に汚れたチーズと布を、きれいに洗い巻きなおしている所です。この初めて見る光景にびっくり。そして、最後に試食に出されたとろけたチーズのド迫力と、おいしさに感動したのでした。教本に載っているこの国のチーズの写真はここで撮らせてもらったものです。この後山から下りて、港町リスボンのスーパでこの思い出のチーズを探したが見つからず、その代わり多くの同系統のチーズ見ることができました。スペースの関係でお見せできないのが残念です。

⑤:とろけるチーズの迫力とおいしさに感動

 

 

 

 

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
*禁無断転載