(8)加 塩
わずかな例外はあるけれど、チーズには必ず塩をします。「塩をする」この言い方は日常的に何気なく使っているけれど、塩は単に食品に塩味をつけるだけではなく、塩によって多くの新しい食品が生み出されてきたのです。例えば漬物や干物などにする塩は、最初はその素材の保存性を高めるために使われたと考えられるけれど、それが塩分の多様な働きによって新しい味覚の誕生につながってきたのです。
チーズが誕生してから数千年、人類はこの様な塩の働きを利用し多くの個性的なチーズを作り出してきました。例えば大型のハード系のチーズでは、塩の力で表皮を脱水し硬くしてチーズの形を守ると共に内部に浸透し、チーズの成分と結びついて特有の味をも作りだすなど、塩はチーズの個性造りにも大きく関わってきたのです。そのためにチーズへの加塩の方法はチーズによって様々な方法がありますが、その一部を写真で紹介しましょう。
写真①はフランス北東部原産の古いP.D.Oチーズ、マンステル(Munster)に塩をつけている場面です。ヴォージュ山脈の緩やかな稜線にあるこの工房では、旦那さんが牛の世話から搾乳までの外回りを担当し、若奥さんがその牛乳を受け取ってチーズを作るという伝統的な方法を継承していました。朝のチーズ造りが一段落すると、数日前に整形された若いチーズの表面に、ていねいにしっかりと塩付けをしていました。
写真②はハード系チーズの加塩です。水槽に満たした飽和食塩水に一定の期間チーズを浸漬する。この方法は塩が容易に安く手に入る場所でなくては不可能だし、塩水槽を設置するスペースも必要です。スイスの山地など不便な場所で、昔から大型チーズを造ってきた所では、山小屋に塩を運び上げ、毎日チーズの表面に塩を擦り込み、硬い表皮を作ると共に全体に塩を浸透させていくという方法を採っていました。現在もその手法は生きています。塩によって造られた堅牢な表皮は雑菌などの侵入を防ぐとともにチーズを乾燥から守り、中心部に浸透した塩分は有用な微生物の生育を助け特有の風味を作りだすのです。
写真③は北イタリアの平野で多く造られている、パルミジャーノ系の大きな工場で撮ったもの。ここでは塩水槽にチーズを浸すのも写真のように遠隔操作で行われ、熟成庫の棚に並んだチーズを反転し、表皮を磨くのもロボットが一人でガサゴソとやっていました。
最後はフランスのロックフォール(Roquefort)の加塩風景です。青かびチーズには特に塩は重要です。普通のチーズの塩分濃度は1~2%ほどだけれど、青かび系のロックフォールは4%ほどの塩分が必要なのです。そして青かびは他の種類のチーズの微生物と異なる点は生育には空気が必要というところです。そのため他のチーズと造り方が違ってくる。
最終的にカードは写真④のようなやや硬めの粒状に仕上げチーズ内に空間を残すため軽くプレスして写真⑤のようなチーズの形を作ります。チーズの表面を見てください。他の種類のチーズと比べ表面はシワだらけ。この様に他のチーズでは絶対に許されないような地肌に仕上げ、チーズの側面からも空気が入るようにしている。形ができたらチーズの上に塩をのせて、浸み込んだら、ひっくり返して裏面にも塩を当てる。こうして青かび系チーズの加塩は他の種類のチーズの数倍もの塩分を内部に浸透させなくてはならないのです。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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