(7)プレスによる脱水と成型
前回のテーマも脱水と成型で、同じような作業のようですが、チーズは種類によって様々な細かい技術があるので、代表的なハード系のチーズを例に、そのあたりを少し紹介しておきます。今回は主として水分の少なくなったカードを型に入れてプレスし、残った水分を絞り出すとともに最終的には規定の大きさと形を作っていく工程です。こうした作業は年ごとに進化し近代化されていますが、一方、数百年かそれ以上に古くから作られている「原産地名称保護」などの指定を受けているチーズは、古典的な製法を守る義務があるため、旧来の道具や設備を使っている場合も多いのです。このあたりを見極めるのは、なかなか困難ですが面白くもあります。
写真①は前回の「脱水と成型」でも紹介したパルミジャーノ・レッジャーノのです。前回のこのチーズの写真は「円柱形」でしたが、あれは第一段階の姿で、この後には写真のような締め付け自在のステンレスの型をチーズに装着し和太鼓状の形を作っていきます。写真①のステンレスの型の外側にはロープが巻かれ、木製のヘソのような物がついていますが、ここをハンマーで叩いて締め付け、このチーズ最終の型にすると同時にPARMIGIANO REGGIANOというドット文字が書かれた型を挟み込み表皮に刻み付けるのです。このチーズの表面に描かれている文字やマークなどはこの時に付けられるのです。
写真②のチーズはスペインと国境を接するピレネー山脈のフランス側のバスク地方で羊乳から作られたオッソー・イラティー(Ossau-Iraty)です。製作者は小さな男の子が一人いる若夫婦でした。時期は6月、ピレネー山脈にヒツジの群れを追い上げ、毎日搾乳し、小さな山小屋でチーズを造っているのです。午前中に造ったチーズは4個で、写真の様な古式の圧搾器でプレスしている所でした。この圧搾機は古くからある型のもので、最近では見かけなくなりました。
話は少しずれますが、この工房から少し下った森の中に古い城址がそびえる美しい町があります。ここはスペインの巡礼地に行くフランス側の拠点だけれど、かつてこの町には作家の司馬遼太郎氏がフランシスコ・ザビエルの生家であるスペイン側のザビエル城に行く途中にこの町に立ち寄り新しい発見をしたことが『街道をゆく22:南蛮の道Ⅰ』に書かれています。
写真③はいわゆる山のチーズといわれるハード系のチーズで、これはスイスの国境近くのアボンダンス(Abondance)でつくられる同名のチーズです。このあたりから、スイスの山岳地帯で造られるチーズの多くは、大きさの違いはあるけれど、形は円盤型で製法はほぼ同じです。銅釜でカードを硬めに仕上げ癒着して塊になったら布で掬い上げ、布ごと円形の枠にはめてプレス機にかけます。写真のプレス装置は相当古そうですが生産量が多くなければこれで充分役に立ちそうです。
写真④:この横型のプレス装置は、スペイン南部の新築らしい羊乳チーズの工房で撮ったものですが、このプレス機も最新の物の様でした。この様な横型のプレス機は、厚みのある中型の円筒形のチーズに多く使われますが、壁面に付いているので場所を取らず作業効率がよさそうです。
写真⑤はジュラ山中のブルー・ド・ジェックス(Bleu de Gex)の工房で撮ったものですが、ここでは姿形や大きさも同じのモルビエ(Morbier)も作っているので紛らわしいのですが、この写真は何をしている所か。これはカードを入れたモールドを積み上げて脱水と成型をしているところです。などと勝手に解釈したけれど、しかし、それにしては、これまで見たチーズとはやり方がずい分違うようですが、この工房には案内係がおらず勝手な解釈です。この様に長年チーズ工房を見学していても、分からないことはしばしば出てくるけれど、それがチーズの面白さなのです。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
*禁無断転載