フロマGのチーズときどき食文化

カメラが探ったチーズ造りの現場(6)

2021年11月15日掲載

(6)脱水と成型(ハード系チーズ)
先号に続き、チーズ製造の初期の作業である「脱水と成型」の話です。
前回はソフト系のチーズでしたが、今回はハード系のチーズを取り上げます。チーズは基本的には原料乳に含まれる80数%の水分をどれだけ排出し、あるいは残してチーズにするかによって、それぞれ目指すチーズの個性が作られるのですが、今回取り上げるハード系のチーズは、乳中の水分をどれだけ排除するかという事がテーマになり、おのずと前回のソフト系チーズとは器具や道具はもとより、作業の種類も違ってくるのです。

① 塊になったカードの引き上げ

まず、ハード系のチーズは大型のものが多いので、使われる器具なども違ってきます。まずはカードを生成するチーズバットやケトルの容量が大きい。それは固形分が10数%というミルクから大きなチーズを造ろうとすれば、原料乳の量も多くなり器具なども大型にならざるを得ない。またハード系のチーズは、製造工程をオートメーション化し大量生産されるものも増えています。しかしヨーロッパの「原産地名称保護制度」に守られているチーズは、製法の重要な部分は、古い手法を継承するように義務付けられているので、使われる器具もどことなく古めかしく見えるのです。

さて、ハード系のチーズを造る装置(チーズ釜・チーズバットなど)は前述の通り一般的に大型です。写真①はフランスのアボンダンス(Abondance)という山のチーズの工房ですが、まずは銅釜の中で凝固させたミルクを、ピアノ線を張ったカードナイフで細かくカット。次にカットしたカードが癒着しないように攪拌しながら釜の温度を上げていく。そうするとカードはホエイを排出しながら固く絞まってきます。

② 型に入れプレスし成型と脱水を行う

頃合いを見はからい攪拌を止めるとカードは釜の底に沈み、くっつき合って大きな固まりになる。この固まりを布で掬いあげ(写真②)丸い型枠に入れてプレスし、チーズの形を造ると同時に、カードに残った水分(ホエイ)取り除きます。この写真のチーズ工房はサアヴォワの片田舎にある中堅クラスの工房ですが、何と日本人の職人が一人でAbondanceチーズを造っていた。

③ ステンレス製の大きなチーズバット

でも、少し近代的な工房では、写真③のような細長いステンレス製のチーズバットでカードを作ります。
そしてカードの水分が抜けてカード同士の癒着が始まったら、バットの中に仕切りを作ってカードを集めて軽くプレスし大きな四角い形を作る。そして、マット状になったそのカードを写真④のように一定の大きさのブロック状に切り分けモールドに詰めて圧搾し残りの水分を取り除くと共に、チーズの形を造っていくのです。

④ ブロック状にしたカードの型詰め作業

しかし、一部にはカードの成型と脱水にプレス機を使わないチーズがあります。イタリア北部のパルミジャーノなどのグラナ系のチーズです。これ等のチーズは、カードを徹底的に細かくカットし、最終的には釜の中のホエイの温度を55℃まで上げます。するとカードは収縮し米粒ほどの大きさのかなり固い弾力のある粒になります。この状態で攪拌を止めるとカードはくっつきあい、大きな塊になって円錐形の釜の底に沈みます。

⑤ パルミジャーノ・レッジャーノの成型(第1段階)

これを布で掬い上げ2等分し型に入れますが、普通のハード系のチーズのようにプレスはしないのです。型に入れたらその上に分厚い木製(現在はプラスティック)のフタのような物(写真⑤)を載せるだけ。その後、何度も反転を繰り返しながら形を作っていくのです。この系統のチーズは釜の中で徹底的に水分(ホエイ)の排出を行うのでプレスの工程は必要ない様なのです。これは、このチーズ独特な製法で他では見ることはできません。このグラナ系のチーズの成分表を見ると35%前後の乳脂肪分が表示されていますが、水分のところには横線が引かれていて数字はない。これ等のチーズにはほとんど水分がないという事なのでしょう。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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