乳科学 マルド博士のミルク語り

植物性ミルク

2021年11月20日掲載

最近、植物性ミルクが牛乳代替飲料としてマスメデイアなどで取り上げられ、店頭においても見かけるようになりました(写真1-1.1-2)豆乳を筆頭に、アーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルクなどが牛乳売場の近くに並べられています。これらの訴求ポイントは菜食主義者、牛乳アレルギーの方でも飲める、乳糖不耐症の方でも大丈夫などで、概ねうなずけます。但し、乳糖不耐症の方のためには乳糖をあらかじめ分解した牛乳が市販されています(写真2)。そして、TVなどでは試飲したレポーターが「植物性なのでヘルシーです」と述べています。しかし、本当にヘルシーといえるのでしょうか。
そもそも”植物性だからヘルシー”という考え方はナンセンスです。ヘルシーかそうでないかは個々の食品ではなく、食事全体として栄養バランスや摂取カロリーがその人にとって適切かどうかで決まります。偏った食生活の方、例えば肉ばかり食べる方、麺類、米、スィーツ、加糖飲料など炭水化物摂取がやたら多い方、逆に野菜ばかり食べてたんぱく質摂取が少ない方(「翔んで埼玉」では”その辺の草”を食べさせられる魅力度45位の埼玉県人)などの罪悪感を和らげるアイテムの一つが”植物性”なのかもしれません。
植物性ミルクの原材料表示を見ると、様々な添加物が使われています。添加物が多い理由は、牛乳と同等な栄養素、風味、テクスチャーとするためにそれぞれの植物性ミルクの主原料に不足するビタミンやミネラル、植物脂肪などの栄養素を強化しているためです。その他、飲みやすくするために安定剤、増粘剤、乳化剤、抗酸化剤など、さらには味を整えるために砂糖が添加されている場合もあります。砂糖が原材料のトップに書いてある商品すらあります。

最近、米国で市販されている植物性ミルク641品について”NRF5.3”法という方法で栄養を評価した結果が論文として発表されました(A. Drewnowski, Nature Food, 2: 567-569, 2021)。NRF5.3というのは栄養プロファイリング(C.P.A.コラム、2020年11月20日参照)の栄養評価方法のひとつで主に米国で用いられています。NRF5.3 = NR5 – LIM で計算されます。NR5は摂取を推奨すべき5種類の栄養素、すなわちたんぱく質、食物繊維、ビタミンA、ビタミンDおよびカルシウムで、それぞれ各食品の含有量が一定量以上あればカウントされます。一方、LIMは摂取を制限すべき栄養素で、飽和脂肪酸、添加された砂糖、ナトリウムの3種類で、一定量以上含有されていればカウントされます。この算定式でNRF5.3がマイナスとなる食品は”悪い食品”と捉えられ魔女狩りに遭ってしまいます。しかし、この方法には問題点もあります。飽和脂肪酸を一律に制限すべき栄養素としていますが、最近の研究報告では飽和脂肪酸の組成により心疾患の原因になったり、ならなかったりすることが判明しています。特に、乳・乳製品の飽和脂肪酸は心疾患とは関係していないことが分かっています。なので、この方法で算出された牛乳・ヨーグルトのNRF5.3は+27、チーズは+8(Drewnowski, IDF 2009)ですが、実際にはもっと高い数値となるハズです。それはともかく、植物性ミルクのうち、豆乳とアーモンドミルクのNRF5.3は高く、ココナッツミルクはマイナスのNRF5.3となっています。もっとも、商品毎に配合が大きく異なりますので、NRF5.3も大きく異なります。なので、原材料表示や栄養成分表示をよく読んで選ぶ必要があります。
植物原料を牛乳っぽく仮装するのですから整形手術を行い、厚化粧をしなければなりません。なので、必然的に添加物が多くなりますが、とりあえずその点について目くじらを立てるつもりはありません。しかし、”〇△ミルク”という商品名は消費者に牛乳の代用になるので牛乳を飲まなくてもいいやと誤解させる可能性があります。実際、植物性ミルクは牛乳代替物として訴求され、販売されています。しかし、当たり前ですが決して牛乳の代替にはなりません。例えば、表面的にはカルシウムを添加してカルシウム含量を増やしても吸収性は期待できません。植物性ミルクの主原料である植物自体にはそれぞれ特徴的な長所と短所があります。牛乳の代替物ではなく、個別の特徴を生かした商品を開発してもらいたいものです。


「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。

ⒸNPO法人チーズプロフェッショナル協会
無断転載禁止