ダンチェッカーの草食叢書

第4回『チーズを科学する』のルーツ、『現代チーズ学』と『新説チーズ科学』

2020年12月10日掲載

これまでチーズに関する本はたくさん出版されていますが、科学的なことを解説したものは多くありません。牛乳・乳製品については1960~1990年代までは研究者も多く、立派な科学書も多く残されていますが、その後はめっきり少なくなってしまいました。チーズ専門に限るとごくわずか、片手で数える程度ではないでしょうか。
C.P.A.が2016年に出版した『チーズを科学する』(幸書房)はご存じだと思います。2015年1月に開講した「C.P.A.大学科学講座」の7名の講師陣による、チーズのすばらしさを科学の視点から伝える、むずかしくも楽しい本です。先生方の声が文面から聞こえてくるようで、講義での語り口を思い出します。

『現代チーズ学』2008

その「C.P.A.大学科学講座」の初めの2期は、『現代チーズ学』(斎藤忠夫・堂迫俊一・井越敬司編集 食品資材研究会 2008)をテキストにしていました。これは「New Food Industry」(食品資材研究会)という雑誌の32名の執筆者による連載をまとめたものでした。
『~科学する』は『現代~』と共通する著者が6名、この先生方の更新版になっているともいえます。読者ターゲットが違うので、イラストも多くなって雰囲気も違います。
これからチーズについて科学的なことを学びたい、という方にはまず『~科学する』をおすすめしますが、といっても『現代~』の価値が下がったわけではありません。共通する項目以外にも、読むべきものは多くあります。特に製造技術の各論は、チーズ作りのドラマチックさを伝えてくれます。共通する著者の新旧の違いを読み比べるというのもツウな読み方だと思います。

『新説チーズ科学』1989

『現代~』にはさらに先輩、ルーツとなる本があります。『新説チーズ科学』(中澤勇二・細野明義編、食品資材研究会 1989)です。
これも「New Food Industry」の連載をまとめたものでした。執筆者は24名です。
ぼくは当時、雑誌連載を図書館でコピーしてファイルしていましたが、一冊にまとまり他に類を見ない決定的な本となって出版され、うれしかったことをおぼえています。
後発となる『現代~』は『新説~』を補完する意義もあったと思われ、それぞれに片方のみに詳しく記載されている項目があります。
『新説~』におけるエメンタールやカマンベールの製造・熟成、各種凝乳酵素の働き、品質評価などの項は、特に好きな部分です。今でも折に触れ読み返すとわくわくします。記述に古めかしいところはもちろんありますが、今なおわれわれチーズ好きにヒントを与えてくれるすばらしい本です。

オンデマンド版『新説チーズ科学』

『現代~』はずっと継続して販売されています。しかし『新説~』は発売(1989)後すぐに絶版となり、1998年に一度再版されましたがそれもすぐに売り切れ、長く入手困難となっていました。それがなんと現在はオンデマンド出版で、オーダーすると製本してもらえるようになりました(2016年から)。これは、マニアックで需要は少なくても良いものは残していくというすばらしい取り組みだと思います。

この分野に興味があるならばこの3冊、そろえて持っていたいところです。

※「C.P.A.大学科学講座」は、2021年3月より第7期が開講されます。