乳科学 マルド博士のミルク語り

免疫力って何だ?

2020年4月20日掲載

免疫力って何だ?
コロナと書いて“来るな”と読む今日この頃ですが、このコラムが掲載されるころには沈静化に向かっていてほしいと切に願っています。コロナでコロすナ!!
ところで、免疫力が低いと感染しやすいと報道されています。巷では免疫力を上げる食品があれこれ囁かれています。しかし、皆さまの多くは半信半疑かと思います。まず、“免疫力”って何でしょうか。何となく病気になりにくい体質と思っているのではないでしょうか。何故、病気になりにくいのでしょうか。
免疫とは、自分と敵(異物)を認識し、敵を攻撃することで自分を防御する機能(生体防御)です(図1)。
私たちの周りには多種多様な細菌、ウィルス、排気ガス、動植物など敵だらけです。これらの侵入を防ぐ最初の防衛ラインは腸管や皮膚で、物理的に敵を排除します。いわば城壁みたいなものです。腸管の場合にはたんぱく質などを消化酵素が分解して異物とは認識されないようします。また、腸管に定着しているプロバイオティクスと呼ばれる細菌が常時見張りをしていて敵が来ると腸管内に侵入するのを防ぎます。しかし、腸管に隙間がある場合、防ぎきれなかった敵が外壁を超えて体内に侵入します。
すると、体内の一次防衛ラインにて一次攻撃部隊となる細胞が出撃し、敵と戦いマクロファージなどの細胞が敵を取り込んでしまいます(貧食作用)。敵の数が少なければこれで敵を防ぐことができます。しかし、敵が強力な場合には一次防衛ラインを突破されてしまいます。そうなると次は二次防衛ラインでの戦いになります。

ここではBリンパ球という細胞が抗体を発射します。抗体はミサイルと同じように特定の敵のみを認識し敵に結合します。過去に遭遇した敵に対する抗体を発射できる細胞を探し、その細胞を増産して発射命令を出します。結合した敵-抗体の結合物はマクロファージなどの細胞に取り込まれ無力化されます。しかし、初めて遭遇する敵に対抗する抗体はないので、敵に遭遇しても発射されません。Bリンパ球はこの“未知との遭遇”である敵に対応できるミサイル抗体を準備します。したがって、二度目に遭遇したら待ち構えていた抗体が発射されます。Bリンパ球の他にも、T細胞というリンパ球と異物が遭遇すると、敵を攻撃する化学物質(これをサイトカインといいます)を出して異物を攻撃します。

この二次防衛ラインの戦いにてBリンパ球がIgEという抗体を発射する場合があります(抗体にはIgG, IgM, IgA, IgEなどの種類があります)(図2)。異物が花粉、ダニ、食物などの場合にはIgE抗体が発射されることが多いようです。IgEが異物と結合すると肥満細胞を刺激し、ヒスタミンなどの化学物質が分泌されます(肥満細胞といっても肥満とは無関係です)。ヒスタミンは発疹、かゆみ、咳などの症状の他、ひどくなると気道を収縮させ呼吸困難になったり、血圧が低下し生命に危険をもたらしたりします。このような症状はアナフィラキシーショックと呼ばれ、時折マスコミにも取り上げられます。

このような生体反応を総称してアレルギーと呼びます。牛乳アレルギーは牛乳(主として乳たんぱく質)を敵と認識し、花粉を敵と認識する場合が花粉アレルギーなのです。アレルギーとは免疫が過敏に働く症状です。免疫力を高めたり抑制したりするのはT細胞の仕業です。T細胞が免疫力のバランスを調整しているのです。私たちの体内では極めて複雑な化学反応が行われており、故に生きていけるのです。
 

免疫力を上げる食品のひとつとしてヨーグルトが話題になっています。ヨーグルトなら何でも効くわけではありません。プロバイオティクスと呼ばれる乳酸菌が含まれるヨーグルトはある程度の効果を期待できます。プロバイオティクスとは生きて腸管に到達して腸管に定着する菌で、牛乳を固めるために使われる乳酸菌は胃酸の働きでほとんどが死滅してしまいます。プロバイオティクス菌は城壁での攻防にて守りを高める役割があります。
一次防衛ラインや二次防衛ラインでの戦いで武器となる抗体や化学物質はたんぱく質であり、たんぱく質の働きを助けるビタミンやミネラルです。良質なたんぱく質やミネラル、ビタミンを豊富に含む食品といえば牛乳、ヨーグルト、チーズなど乳製品ですよね。しかし、乳製品といえども100%ではありません。なので、様々な食品をバランスよく食べることが免疫力アップのために最も重要で有効なのです。