フロマGのチーズときどき食文化

山羊乳チーズの季節

2019年6月15日掲載

山羊乳チーズの季節

1.沖縄特有の山羊達 

今回は山羊の話です。少しチーズの知識がある人は、山羊乳のチーズをシェーヴルといったりするでしょうけど、Chèvreはフランス語で、イタリア語でメス山羊はCapra、スペイン語はCabraですから、ここでは山羊乳チーズとしておきます。なんでもよく食べる山羊は飼いやすいため、日本でも戦後の食糧難時代には全国で飼われていた。その数は1957年には56万頭に達し、その後急速に数を減らし21世紀に入ると1万頭を切ったそうです。大方は学校の教材やペットとして飼われていたようですが、最近では山羊乳チーズの生産者も増えているので、今後は少しずつ山羊の数も増えていくでしょうね。日本の山羊の多くは、真っ白で可愛い日本ザーネン種という山羊だけれど、昨年沖縄の山羊乳チーズの工房を訪ねると沖縄で改良された様々な山羊が飼われていました。沖縄には山羊肉を食べる文化があるので色んな山羊がいるのです。この亜熱帯の島で、チーズのシュヴァリエの國場百合子さんの指導のもとに山羊乳チーズを完成させた工房がありました。写真はその工房の山羊達ですが、残念ながら後継者がおらず、今は無くなってしまいました。

2.乳房が大きいマホレラ山羊

この6月の上旬に南フランスの山羊乳のチーズを少し見てきましたが、時はまさに山羊乳チーズの最盛期だったようで、各地ででき立てのチーズを食べて、そのおいしさに、やっぱり本場に来なくちゃと、ありきたりのセリフをつぶやいたのでした。山羊の乳はカロテンがないので真っ白です。そしてアレルギー物質が少ないため、山羊乳チーズは幼児からお年寄りまで安心して食べられるといいます。さて、ここでフランスやスペインなどでチーズの原料を提供する山羊を紹介しましょう。2点目の写真はスペイン領カナリア諸島の一つフェルトヴェントーラ島の山羊です。カナリア諸島には独自に進化した三種類の固有種の山羊がいるそうで、その中のマホレラ(Majorera)種の山羊がこの島の砂漠のような広大な土地に放牧されていました。山羊乳はレンネットが効きにくく、カードがもろいので柔らかい小型のチーズしか作れないと思っていたけど、ここではセミハード系で中型のマホレロ(Majorero D.O.P.)をつくっていました。

3.マホレラ山羊の図鑑

3点目の写真はこの島のマホレラ博物館にあった、マホレラ山羊の図鑑をポスターにしたものです。同じ山羊にこれほどの亜種がいるという事でしょうか。この山羊達は乳房が異常に大きく乳量が多そうです。




 

4.真っ白な山羊乳のカード

最後の写真(5)は南仏プロヴァンス地方の山羊です。フランスの山羊乳チーズといえば日本で最初に知られるようになったのは、ロワール地方産のものでした。表面に炭の粉をまぶした太巻きすしのようなサント・モールや踏み台形のバランセ、そして、ラルース・チーズ辞典もその名前に馬フンという註訳をつけているクロタン・ド・シャビニヨルなどが山羊乳チーズとして東京の高級スーパーの店頭で見られるようになります。そして、21世紀に入ると、少しタイプの違う南仏の山羊乳チーズも注目されるようになるのです。今回現地で食べて衝撃を受けたのは、A.O.P.を取得したばかりのブルース・デュ・ロヴ(Brousse du Rove)でした。バトン型の細長いプラスティックの熟成容器に入っているのを皿に取り出すと、やや硬めのヨーグルト状に崩れる。口に含むと、少し気障に言えばハーブの香りがする南フランスの風が口中を吹き抜けるようでした。この新しいチーズにミルクを提供しているのが、立派な角を持ったロヴ種の山羊達で、バノン、ペラルドン、ピコドンなど南仏を代表するチーズにもこの山羊乳が使われている重要な山羊なのです。

5.南仏の山羊の女王ロヴ種

 









©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
*禁無断転載