乳科学 マルド博士のミルク語り

フレッシュチーズ

2019年2月20日掲載

フレッシュチーズ

フレッシュチーズは非熟成チーズの総称ですが、モッツァレラ以外にも様々なチーズがあり、特に酸凝固系のフレッシュチーズについては各チーズの何がどう違うのか漠然としていてよく分からないという方も多いのではないでしょうか。私もその一人でして、きちんと調べてみようと思い立ちました。しかし、調べてみるとCODEXで規格が明確になっているものは少なく、規格があっても成分や製造法は漠然としていることが分かりました。それでも、様々な文献や資料から概ねこんなものという特徴や製造方法を表1、表2、図1に示します。

まずクワルク系ですが、一般的には脱脂乳を原料とし、乳酸菌または乳酸菌+レンネットにより凝固させホエイを除いたものですが、クリームや果実などを混ぜたものもあります。このため、固形分中脂肪は10%未満から45%まで様々なクワルクが存在しています。製造方法の特徴はホエイ除去の前、または後に55-75℃、30-60秒間加熱することで、これをサーミゼーション(thermization)と呼んでいます。サーミゼーションは本来無殺菌乳からチーズを製造する前に、低温殺菌より温和な条件で生乳を加熱し乳の保存性を向上させる方法ですが、クワルクの場合はホエイ除去の効率を上げたり、好ましくない風味(off-flavor)の発生を減らし、日持ちをよくしたりするために行っているようです。
カッテージもクワルクと似た作り方で、脱脂乳を原料にしています。CODEX規格では“無脂乳固形分は18%以上で、3-12mmのカード粒を視認できる組織”となっています。クリームなどを混ぜたタイプもあり、脂肪率は様々です。窒素ガスを吹き込んだ含気タイプもあるそうです。
フロマージュ・フレはフランスで流通しているクワルクです。似たような名前でフロマージュ・ブランがあります。両者は成分も製法も似ているのですが、フランスの規格によればフロマージュ・フレは販売時に乳酸菌が生きており、フロマージュ・ブランは死菌になっているという違いがあります。
クリームチーズには様々な脂肪率のものがあり、CODEX規格では固形分 22%以上、固形分中脂肪率は25%以上と定められていますが上限はありません。一般的には固形分中脂肪率は60-70%が多いようです。フランスの規定によればダブルクリームは60-75%、トリプルクリームは
75%以上となっており、トリプルクリームチーズはブリア・サバランとも呼ばれています。クリームチーズの製造においては原料の殺菌前に均質を行うことが特徴です。一般的なチーズ製造においては脂肪の均質化は行いませんが、クリームチーズでは均質化することで脂肪球が小さくなり、たんぱく質により乳化され、脂肪のロスを抑えることができます。さらに、カードを加熱(70-95℃)し、均質機を通します。この工程を経ることでカードは硬さや弾力性が増してきます。κ-カラギナンなどの安定剤を加える場合もあります。
高脂肪のフレッシュチーズにマスカルポーネがあります。生クリームを原料とし、乳酸菌ではなく有機酸を加えて酸性にします。これにpH調整剤を加えてpHを5.0-5.8程度にします。
ギリシャヨーグルトを代表とする水切りタイプのヨーグルトは“ヨーグルトチーズ”とも呼ばれ、ヨーグルトであり、チーズでもあります。乳等省令ではヨーグルトは無脂乳固形分 8.0%以上で、生きた乳酸菌が10
7cfu/g以上と定義されています。なので、水切りヨーグルトは生菌数が規格を満たしていればヨーグルトです。一方、チーズは凝固物からホエイを一部抜いたものですのでチーズでもあります。もし、生きた乳酸菌数が107cfu/gに満たない場合はヨーグルトではなくチーズです。CODEX規格によれば、水切りした濃縮タイプのたんぱく質含量は 5.6%以上と定められています。水切りヨーグルトは世界中にあり、乳文化発祥の地である西アジアでは“ラブネ”と呼ばれています(平田昌弘、「デーリーマンのご馳走」、デーリィマン社)
このように、世界的に似たようなフレッシュチーズが多数あるため、世界標準を設定することは極めて困難であることは理解できます。しかし、消費者の立場からは、何がどう違うのか理解できる程度の世界標準があると何かと便利なのではと思います。