日本のパンは世界一か…
パンブームといわれてから10年以上は経つそうですが、いまだにその熱気は衰えを見せず、パンはさらに進化と増殖を続けています。来日する外国人もそのおいしさに、そして種類の多さにぶっ魂げるそうです。ここ十数年来フランスのパン屋の写真を撮ってきたのですが、その店先に並ぶパンの種類は写真の通り多くて十数種類ほどです。日本では主食になる塩味のパンの他、菓子パンや総菜パンがいっしょくたに並んでいて、それらが常に興亡を繰り返しているのです。今では少し大きな店であれば数十種類ものパンが並んでいるのは普通です。もちろんチーズ入りパンもたくさんあります。そんな風潮の中で、種類を限定し世界水準を超えるパンを焼いている志の高い店も次々と名乗りを上げ、それが現在のパンブームを支えているというのです。
2年ほど前に発刊された『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか=NHK出版新書』という面白い本があります。作者は生活史研究家で作家の阿古真理氏。副題に「パンと日本人の150年」とある通り、庶民がパンを食べるようになってから今日までの日本人の食の変遷がパンを軸にして描かれているのです。ここではその中から、日本人が100年前に発明し外国人も、そのアイデアにビックリというパンを紹介しましょう。といっても我々にとってはすでに古典といっていいお馴染みのパン達なのですが。
パンの歴史は古く、今から5千年前の古代エジプトではすでに発酵パンが作られていたといいます。ヨーロッパ文化の根幹をなすキリスト教の聖典にもパンはしばしば登場します。特にキリストが、パンをとり「これはあなた方に与える私のからだである」という「最後の晩餐」での言葉が有名です。
このようにパンは、ある意味では神聖な食べ物なのですが、日本人はそんなことは意にも介さず次々と新しいパンを創造していくのです。
日本には前述の通り菓子パンと総菜パンのジャンルがあって、これらのパンが売り場の大半を占め、次々と新作が登場しては消えていくと言う事を繰り返していますが、そんな中で古典中の古典といえばアンパンでしょう。アンパンは銀座木村屋の創立者、木村安兵衛と、その次男の英三郎が今から実に145年前の1874年に作り出したと木村屋の歴史に記録されています。次に古いのがジャムパンで1900年に同じく木村屋の三代目が考案。そして、クリームパンは1904年に新宿の中村屋の創立者、相馬愛蔵が作りだし、それから20数年後に総菜パンの古典、カレーパンが生まれるのです。そして、今一つの古典的菓子パンであるメロンパンは、その発祥には諸説あり謎めいているのですが大正中期頃の誕生といいますから、1920年前後と言う事になります。
でも、このメロンパン最大の謎は、食べても眺めてもどこがメロンなのかよく分からない所ですね。とはいえこれら5種のパンは驚くことに100年後の現在でも、ほとんどのパン屋で買うことができると言う事です。こんな商品って他にないでしょう。今回この稿を書くにあたり、これらのパンを買いに中程度の規模のパン屋に行きましたが、一軒目で5種類全部買うことが出来たのには二度ビックリでした。日本のパンは、品質はひとまず置くとしてそのバラエティーの多さではおそらく世界一でしょう。