世界のチーズぶらり旅

山羊小屋で突然のランチ会。

2017年5月1日掲載

冬枯れのパリ盆地

2月のパリ盆地は天気が悪く陰鬱で寒い。すっきりと晴れることは少なく、日に何度も小雨、時にはみぞれが降る。こんな季節に北フランスを旅した。恒例のパリ国際農業見本市のついでに、北フランスとベルギーのチーズを訪ねたのである。パリからベルギーの国境まで最短で200km足らず。目ぼしい観光地は少ないから訪れた人は少なかろう。かく言う筆者も初めてである。しかし、この地方には日本人にはなじみが薄いが、ちょっと変わったチーズがたくさんある。中世以来、この地方で広大な荘園を経営していた修道院は新しいチーズを次々に生み出し、それを傘下の小作人に作らせ年貢として納めさせたりしていた。時代が下って、しばしば襲来するヴァイキングにより荘園は崩壊し、そこには解放された小作農民たちの村々ができる。そこで農民たちは修道院から受け継いだチーズのほかに、熟成させた、柔らかい農夫のチーズといわれるものを多く作り出したのだという。

色彩の乏しい村

今回の旅では山羊乳チーズの工房を訪ねる予定が組まれていたが、北フランスの山羊乳チーズとはあまり聞いたことがなかったので興味をそそられた。ゆるやかに起伏する冬枯れの畑や牧草地を通り抜け、時々現れる雨に濡れた色彩の乏しい村々を何度も通り、昼近くにバスがやっと通れるような細い道のドン詰まりに、立派な赤煉瓦の建物がみえた。その横にかなり大きな山羊の畜舎があった。入ってみると、細長い大きな部屋が二つあり、それぞれに50頭、計100頭余りの山羊が入れられている。その中央の通路というか、干し草置き場というか、そんな細長い島に、すでに食卓がセットされていたのだ。同行の女性たちは寄ってくる山羊を相手に例によってカワイィ、カワイィを連発。そのうち突然悲鳴が聞こえたので見れば、一頭の山羊が子供を産み落としたところだった。ここいるのはみな臨月を迎えた山羊たちらしい。山羊のお産を見ながらのランチとは! そうそう体験できるものではない。

山羊小屋でランチ会
臨月を迎えた山羊たち










中央の島にしつらえられた食卓にはワインやグラスが並んでいて、すでにランチの用意が整っている。まずはワインで乾杯というところで、また生まれた!の声。この季節は山羊の出産ラッシュなのだ。牧場の人たちは、ちっとも騒がず、ゆったりとワインを注ぎ、このあたりの郷土料理などをサービスしてくれる。鍋いっぱいの羊肉(だったと思うが)のシチューがなかなか美味かった。出されたチーズはこの工房のオリジナルなのだろうか。写真の通り洗練されていて美しい。こうしてランチを食べ終わるまでに4~5頭の子山羊が生まれたようだったが、心配した家畜小屋特有な匂いも気にならず、みなこのユニークで粋な演出のランチ会に興奮気味であった。いい経験をさせてもらいました。

独創的な山羊乳のチーズ