2月末、冬の終わりに差し掛かるパリの天気はいつも悪い。日が照ったかと思えば氷雨が降る。湿度が高いので底冷えがするのである。こんな季節のパリにいく度か通った。もう行くまいと思うが今年も行った。パリ「農業国際見本市」、日本でいう「パリ農業祭」は、毎年この時期に開かれる。フランスの国土は日本の1.5倍で人口は日本の約半分。耕地面積率は日本の13%弱に対してフランスは50%。主な食料の自給率は軽く100%を超えている。美食あふれるこの国を日本では「美し国フランス」と表現している例がいくつか見られる。このフレーズはフランス中世の叙事詩「ローランの歌」にしばしば現れる国を讃える美称、Douce France(ドゥース=甘い、心地よい)を万葉集の「美(うま)し国ぞあきつ島大和の国は・・」になぞらえて訳したものと思われる。
農業大国と自他ともに許すフランスのパリで毎年行われるこの見本市は、想像を超える規模だ。パリ市内南西部の東京ドーム3個分の広大な敷地に、大きな建物がいくつかあり、そこに何千何百という食品が並ぶ。そればかりではなく、その食を支える家畜などの動物たちの展示もあってなかなか面白い。その個体数は2000を超えるというから、すべてをつぶさに見ようとすれば、三、四日はかかるかも知れない。この年に一回の食の祭典はフランスでも重要なイベントらしく、開会には必ず大統領も参列する。一週間余で国内外から70万人超の入場者があるという。
今回は別の用もあったので、この農業の祭典は1日で見る羽目になった。家畜の展示場はパスして、食品の展示コーナーを猛然と突き進んだ。ちょうど日曜日に重なったため、子供づれの客が多く歩くのもままならない状況である。チーズも珍しいものだけしっかりと撮影しあとは試食、試飲三昧と決めた。まずは好物の生カキのカウンターに立ち寄り、今年のカキは小さいなと言いながら1ダース(12こ)を辛口のワインで流し込む。この展示会は「国際」と銘打っている通り、ヨーロッパ周辺国やアラブ系の国々のブースもあるが、フランスは地方ごとに区割りされ、その地方の料理を出すレストランが併設されているから、じっくり見て回れば地方の名産がよくわかる仕掛けになっている。
その中で目立ったのはラクレットだ。最近フランスのラクレットもP.G.I.(地理的表示保護)を取得しラクレット・ド・サヴォワとして本場スイスの強力なライバルになった。そのせいか、会場のラックレット・レストランは大入り満員で、見渡したところ100人以上の客がラクレット・オーブンを囲んでいるのは壮観である。またスタンドではラクレット入りのサンドイッチが食べられる。
最後の方で一度は食べたかったブーダン・ノワール(豚の血液のソーセージ)の店を見つけ注文すると、太いやつが3本も現れたのはびっくり。まずくはないが、飛び切り旨いというものではない。中は柔らかくどうして血の塊を連想させるのだ。新しく赤ワインのハーフボトルを取りやっと流し込むことができた。