フランスの北東部にあるアルザス地方は幅50キロ、南北に200キロに満たない細長い地方である。その東側にはライン河が北に向かって流れ、これがドイツとの国境になっている。この地方は幾度もドイツに行ったりフランスに来たりを繰り返し、第二次大戦以降はフランス領として発展してきた。日本の一般の観光客には今一つ知名度が低いが、この地方はドイツの文化が入り混じった、フランスでも特異な風土と文化を持つ地方である。
西側に連なるヴォージュ山脈の裾野は一面の葡萄畑で、ワイン街道を走れば、塊村と呼ばれる小さな集落が点在していて、オモチャの国の様なかわいらしい村が次々と現れる。 これらの村々は教会を中心に白壁に組木をはめ込んだ家や、温かい色調に塗られた家などが軒を連ね、どの窓辺にも花が飾られている。
アルザス地方は美食の国でもある。シャルキュトリーと呼ばれるハムやソーセージなどの豚肉製品は村ごとに自慢のものがあり、これらを使ったシュー・クルートは、この地方では絶対に味わうべき料理である。更にフランスが誇るフォワ・グラの名産地でもあり、特に18世紀末にこの地方の料理人が発明したフォワ・グラのパイ包み焼きが有名。
ワイナリーを訪ね、ワインを試飲してから、見学を申し込んで置いた鵞鳥の飼育場へ乗り込んだが季節がら鵞鶏はいなかった。だが試食はたっぷりと出された。世界の珍味を前に理性を失った人(私)はその後のストラスブールの昼食で地獄を見る事になる。
ストラスブールはドイツ語で街道の町。ローマ時代、蛮族から国境を守る軍団基地があった。その後ライン河の水運で栄え、フランスを代表する大聖堂が建てられた。近くで産出するバラ色の砂岩で造られた繊細な建築様式は、石で造られたレースと呼ばれる優雅なたたずまいである。18世紀の後半、かのマリー・アントワネットが14歳でヴェルサイユに嫁ぐべく、この町を通った時にはこの聖堂の鐘が打ち鳴らされた。
この名建築をぜひ写真に撮ろうと試みるが、周りは狭く聖堂はあまりにも巨大なので全貌を写真に入れるのは難しい。カメラマン泣かせの建物である。
町に入るとすぐ昼食になったが、レストランでのオードブルが何とフォワ・グラで、ご丁寧にパテと、生をソテーした2種類が皿に鎮座している。メインはやはり名物のシュー・クルートで、日本人なら2人分の量である。前の試食で理性を失った者は半分も食べられず、むなしくワインを舐めるだけだった。
さほど広くない町を歩くと、中心部の広場には市が立っていて様々なものが並んでいたが、やはりチーズ屋さんが気になる。アルザスにはAOP(原産地名称保護)指定のチーズはマンステル一つしかない。そのためかフランス各地のチーズが並んでいたが、地元の名も知らないチーズを2kgほど買いバゲージの底に収めた。