ドイツは世界第2のチーズ生産と言うが、ドイツのオリジナルチーズは少ない。チーズ大国フランスと国境を接しているのになぜか。この疑問は頭から離れない。
今から2000年前、古代ローマの将軍ユリウス・カエサル(シーザー)は、ガリア(フランス)に遠征し、ライン河を渡って2度ほどゲルマニア(ドイツ)に攻め入る。彼が著したガリア戦記には、ゲルマニア人は、主として乳とチーズと肉を食していると書いている。ドイツのチーズも実は2000年の歴史があるのだ。ローマは西ヨーロッパを次々に征服してローマ文明を移植し、ローマ化していく。だか、幸か不幸かゲルマニアはローマ化されなかった。ローマ化が進んだ国々では古くからチーズやワイン(イギリスでさえ)の多様化が進んだ。ドイツのチーズが多様化しなかったのはこんな理由からだろうか。
ミュンヘンの朝市には、とりどりのチーズが並んでいるが、大方外国産か新しいチーズばかりである。その中に日本でも人気の白かびに被われたババリアブルーがあった。この旅はこのチーズの故郷を訪ねるのが目的であった。 ミュンヘンから南東へ100キロ足らず、オーストリア国境近くに、小さな湖に抱かれたヴァーギングという、砂糖菓子のような瀟洒な家が並ぶ集落がある、ここがババリアブルーの故郷である。この町の乳業メーカーが、戦後に新しいブルーチーズを誕生させた。
脂肪の高い生地に青かびを程良く繁殖させ、表皮をビロードのような白かびで被った。上々の出来映えに発明者は、高名なブルーチーズの名をとって、「バイエルン・ロックフォール」と名付けた。しかし、すぐさまご本家から訴えられて、現在の名前に落ち着いたというが、クリーミィで優しい味わいの名品である。
このチーズの包装紙には日本の八ヶ岳のようなイラストが書かれているが、これはオーストリアの国境にあるヴァッツマンという山で、このチーズはこの山から採れる岩塩を使っているという。それではこの山を見にいくっきゃないと、車でバイエルンの美しい牧場地帯を走ると、黒々としたタンネ(樅)の森の上に雄大なヴァッツマンが現れた。(S)