フロマGのチーズときどき食文化

カツオ節とチーズ

2016年5月15日掲載

カビ付けしていない荒節

新緑が輝く季節、目には青葉・・とくれば初鰹の句が浮かんでくるのは、ちょっと古いかな?。私はことの他カツオが好きで、かつてはこの季節になると土佐までカツオを食べに何度か行きました。カツオは早春、南方から黒潮に乗って北上してきます。九州とか、土佐沖では3月から4月、関東あたりは5、6月位。江戸川柳に出てくるカツオ騒動は、この頃の情景を描いたものでしょう。考えて見ると、カツオは不思議な魚ですね。これほど知られ珍重されている魚のわりには、料理の幅が実に狭い。大方の人は、カツオといえばほとんどが刺身で食べますね。私も煮魚や焼き魚にしたカツオを食べたことは無い。もちろんハラス干しとかナマリ節、酒盗など産地にはいろいろはあるけど、これは珍味の一種です。でも、カツオには日本料理には絶対欠かせない役割がある。それがカツオ節です。

カビ付けした枯れ節

漁船の性能が格段に良くなった今は違いますが、かつては、カツオ節の産地といえば西日本が中心でした。それには訳がある。いろんな理由が考えられますが、春のカツオは脂が少ない。調べてみると春物は脂肪分0.5%に対し秋物、いわゆる下りカツオは6.2%もあります。これではカツオ節になった時に脂がにじみ出てくる。チーズだってパルミジャーノなどの硬くて熟成期間の長いチーズの場合、原料乳から脂肪の一部を抜き取ります。

カツオは北上するに従い脂がのってくるのです。だから油分の少ないカツオが獲れる西日本にカツオ節の生産地が多かったのではないかと私はにらんでいます。

固いが崩れやすいパルミジャーノ

さて、元々カツオ節は節(フシ)に卸した身を茹でてから干していた。それを江戸時代に紀州の勘太郎という人が、茹でたカツオの節を、燻乾、つまり煙でいぶしながら乾燥させるという現在の「荒節」に近いものを考えだします。それを「熊野節」といい、その製法を土佐藩が採用、藩をあげて生産に取り組みます。だけど土佐藩は消費地の江戸までは遠いので輸送中にカツオ節にカビが生える。やれどうしたものか、困ったことでしょうが、しかし、彼らは有用なカビを選別して育成することにより、有害なカビを抑える方法を編み出します。そのカビが内部の水分を吸い出し、更に乾燥を進めて保存性を高めると共に、カビが出す酵素が酸化しやすい脂肪や、蛋白質を分解し旨味をも増幅させることになるのです。これが「土佐節」と呼ばれ大阪や江戸で珍重されるようになり、土佐はカツオ節の一大産地になる。それにしても日本人はすごい。19世紀の中頃パスツールが微生物の存在を明らかにする100年以上前から、微生物を選別しコントロールしていたのです。

超硬質チーズのスプリンツ

カビをつけないものは「荒節」といい、カビを付けて熟成させた物を「枯れ節」といいますが、こちらはチーズと同じ発酵食品なのです。蛋白質も酵素によって旨味成分に分解されている。水分は13~15%。非常に固く、叩くと金属的な音がします。世界中にこれほど固い加工食品はないでしょう。しかも、一瞬にしてダシが獲れるという優れものです。洋風料理のだしといえば牛の骨や肉、大量の野菜やらを使って数時間煮込んでとるスープストックですが、カツオ節なら数十秒で採れる。これにはフランスのシェフ達もびっくりだそうです。最近はフランスの一流シェフも日本のだしを隠し味に使う人も多いとか。

カツオ節のように削って・・

チーズでいうと超硬質のパルミジャーノの水分が枯れ節と同じく15%位ですが、それほど固くないし脂肪が多いせいか崩れやすいですね。チーズでいうとスプリンツの方がカツオ節に近いかな。ずっと以前にスイスにチーズ探訪の旅をした時に、あるチーズ工房で自慢のスプリンツをご馳走してくれたのですが、なんとその時は工場のエライさんが自ら、カツオ節削り器(風)を持ち出してきて、チーズをカツオ節のように薄く削ってくれたのです。感激した私は、思わずそのスイス製のカツオ節刷り器風を買ってしまったのでした。