白いミルクという液体から作られるチーズという食品。大方のチーズは作る時の添加物といえば微量のレンネット(凝固剤)と塩だけです。それなのにチーズは他の食品には見られない多くの種類があります。大は100kgを超す大型の物から、小は20gほどの可愛らしいチーズまで、固い物、柔らかい物、円盤型、太鼓型、球形、ピラミッド形など数え上げたらきりがないほどです。もちろん味わいも他の加工食品では、到底かなわないほど多様性に富んでいるのです。こうした多様な形のチーズを作るためには、それぞれのチーズ専用の「型」(モールド)が使われています。今回はその話をします。
人間がチーズらしきものを作ったのはけっこう古いんですね。今からほぼ8千年とかそのあたりでしょうか。最初は器に搾り取ったミルクがヨーグルトのように固まった羊や山羊のミルクを、草で編んだザルのようなもので脱水しチーズを作ったものと想像されますが、植物で作った物はすぐ朽ち果てて残らないので、これは想像するしかないのですね。それ以降の紀元前6千年紀後半、という事は今から8千年ほど前の遺跡から小さな穴がたくさんあいた土器が発見され、これこそチーズの水切り型だとされています。写真②は20世紀の物ですが、古代からこの様な焼き物の「型」を使いチーズを作ってきたんですね。
チーズはタイプによって作り方が少し違います。カマンベールに代表される、北フランスの平野で作られてきた、小型で柔らかいチーズは、固まったミルク(カードという)は細かくカットせずに、写真③のような底がなく、側面に細かい穴の開いた筒状のモールドをスノコにのせて、お玉などで掬ってカードを一杯にし、途中で反転しながら、自然に水分が抜けるのを待ちます。その後塩をして熟成庫に入れ熟成します。こうして作られるチーズは熟成期間が短く2~3週間で、中身がとろけるなどして食べ頃が来ます。
一方、固いチーズの場合は大きな銅鍋(チーズケトル)でミルクを凝固させ、カードを細かくカットし、温度を高くすると水分がどんどん抜けて、カードは収縮し固くしまってきます。これを集めてモールドに入れて、プレスしてチーズの形を造ります。この方法は、一般的に山のチーズといわれるグリュイエールやエメンタールなど大型で固いチーズを作る時に行われる製法です。こうした製法のチーズは熟成期間が長く数ヵ月から1年以上というのもあります。こうして様々な大きさや形ごとに専用のモールドがあるのです。
なぜこのように様々なタイプのチーズができたかといえば、これは人が動物を飼いチーズを作る場合、動物の種類による搾乳量の違いや、風土や生活環境の違いなど様々な条件のもとで、その土地に合ったチーズが作られてきたからです。交通が不便な山岳地方では、保存性が高く、しかも運びやすいように、チーズは固く大きく作られました。一方、地方の朝市などで売られるチーズは小型で熟成期間が短い物が売りやすく買いやすいし、またバラエティも要求されます。こうしてフランスでは、「一村一チーズ」といわれるように、様々なチーズが誕生しました。そんな中から現代に生き残ってきたチーズも沢山あります。
ここで、写真の型について説明します。一昔前は焼き物や木製のモールドが使われていましたが、EU統合後は衛生面から、材質は金属やプラスティックに代わっています。
4番目の写真は、オランダの球形のチーズ、エダムの型です。そしてこの木製の樽状の物はゴーダの型だったと思います。当然今は使われていない。博物館行きですね。