フロマGのチーズときどき食文化

チーズのじゅげむ、じゅげむ

2014年11月15日掲載

最も長い名前のチーズ

 落語でじゅげむ、じゅげむに始まる長い名前の話は知ってますね。この話に出てくる名前は平仮名で150字にもなる。こんな長い名前あり得ないと思いますか。でも世界は広い。これに近い長い名前の人はいるのです。例えば画家のピカソ。彼の名前を数えてみると15個もあり冠詞も入れて片かなに直すと84文字でした。スペインでは父母の第一姓を最後に加える所もあるそうで、ピカソ自身の名はパブロで父方がルイス、母方がピカソですから略名?はパブロ・ルイス・ピカソ。でもルイスはありふれた名前なのでこれをとって、パブロ・ピカソと名乗ったとのことです。でも世界一長い名の持ち主はエリザベス女王だそうです。

 お待ちどうさま。チーズのなが~い名前の話です。ヨーロッパのチーズでは特に「原産地名称保護」の認定を受けた物に長いものが多いのです。CPAの教本を参考に調べてみました。最も長いのが28文字(ナカグロを含む)で、イタリアの①フォルマイ・デ・ムット・デッラルタ・ヴァッレ・ブレンバーナーでした。ご存じ水牛のモツアレッラは②モッツアレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ。フランスのチーズでは③ブルー・デュ・ヴェルコール・サスナージュ。イギリスの古典的なチェダーは④ウエスト・カントリー・ファームハウス・チェダー。これも長いですね。

規定通りお玉の使用を表すカマンベールのラベル

 なぜこのように長い名前が必要なのか。それは優れたチーズをコピーから守るために出来上がった名前なのです。あるチーズに人気が出るとそのコピーが同じ名前で売られる。するとどれが本物か分からなくなります。カマンベールがそのいい例で、このチーズが作られたのは、フランス西部のカマンベール村といわれていますが、20世紀の始めごろから人気が出始めると、無数のコピーが世界中で作られるようになります。このような現象はワインでも起こりました。そこでフランスでは百年程前に優れた農産品を作り出してきた原産地名を保護するため生産地域や製法など細かい規定を作り規定に合わないものは原産地名を名乗れないようにしたのです。それがAOC(原産地統制呼称)という法律です。

 でもカマンベールのように一般化してしまった名前を止めることはできません。そのため本物のほうには無殺菌乳を使い型入れはお玉を使うなど製法を細かく規定し、更には商品名にド・ノルマンディーという地域名をうたい生産エリアを明確にしたのです。

モッツァレッラの原料を提供する地中海水牛

 ①の場合は、ムットというチーズはイタリア北部のアルタ・ヴァッレ・ブレンバーナというという谷が産地だという事が分かるようになっているのです。②のモツアレッラは、元もと南部のカンパニア地方で水牛のミルクから作られていた特産品でしたが、普通の牛乳からも大量に作られるようになると、本物を守るために1972 年大統領令が発せられ、水牛乳100%のチーズにはブーファラ(水牛)という名がくっつきます。でもその時生産地域の規制がなかったので各地で作られ原産地をおびやかしました。そこで1993年に生産地域を限定しカンパーナとしたのです。おおむねこのような事情で長いチーズの名前ができあがったのです。今回は少し難しい話になりました。

 ※後にヨーロッパ各国ではフランスの制度を手本に独自の原産地名の保護制度を作りますが、1992年にEU委員会はこれらを統合してPDO制度(原産地名称保護:各国語によって略号は異なる)を作り、合格品には統一したマークを与えることにしたのです。右の写真がそのマークです。その下の赤いマークはフランス語のもの。モノクロの場合もありますが認証を受けたチーズには必ずついていますので。買い物の時に参考にしてください。

PDOの認証マーク
フランス語の認証マーク