フロマGのチーズときどき食文化

サンドイッチとカス・クルート

2014年5月15日掲載

パリの駅の売店で

近頃日本の食品業界では、フランス語が次々と市民権を得ているようです。シェフとかソムリエなんていう言葉はもうすでに広辞苑にも載っている。つい最近まで、女の子の夢といえば「わたしケーキ屋さんになるの・・」だったが、今どきのガキ、じゃなかったお嬢ちゃん方は「パテシエールになる(しっかりと女性形になってる)」ですからね。フランス語でいえばかっこよく高級そうに聞こえるのだろうか、最近では、パン屋はブーランジェリー、ハム・ソーセージなどの豚肉製品をシャルキュトリー(シャルキトリーではなくキュトリーだ!といってもこの日本風発音が定着てしまった)などといってます。ブーシェリー(肉屋)、ジビエ(野禽)などの言葉もちらほら見えますが、フロマジェリーなんかはもうすっかり定着しましたね。

シェーヴルのカス・クルート

最近ではカス・クルートというのが静かなブームだそうですがご存じだろうか。簡単に言えばバゲットにチーズやハムなどをはさんだものをいうようです。何だ、サンドイッチかといわれればその通りです。サンドイッチといえば、古代からパンを食べてきたヨーロッパの人達にとって、ありあわせの具材をパンにはさんで食べるのはごくありふれた発想で特別な名前などなかったのです。特に貧しい人たちにとっては、ごく日常的な粗末な食べ物だったかもしれません。「お前とならばチーズと玉ねぎ」ということわざがありますが、粗末なパンに生の玉ねぎとチーズをはさんで食べるのは貧しさの象徴だった。ドン・キホーテの物語に出てくる世界です。

ボリュウムがすごいオープン・サンドイッチ

この庶民の食べ物を上流階級にはやらせたのが19世紀のイギリスのサンドウィッチ伯爵です。伝説によれば彼は大の賭博好きで食事の時間も惜しんで熱中。パンにローストビーフなどをはさんだものを召使に作らせ、それを食べながら勝負を続けたとされています。その軽食がやがてサンドイッチの名で上流階級に広まったという事です。

伯爵様の名前から派生したサンドイッチはその形状から、はさむという意味も生まれます。略語が好きな日本人はハム・サンドなどと言ったりしますが、そんな言い方はないと辞書は警告しています。はさむという意味からすればオープン・サンドなんかはちょっと矛盾した言い方ですね。こちらは北欧が本場ですが具材が多彩で豪華です。

フォワ・グラが5枚も!

さて、お待たせしましたカス・クルート(casse-croûte)の話でしたね。このフランス語は一般的には軽食を指す言葉で、カスは壊す、割るなどの意味がありクルートは皮です。パンを縦に割り何か具材をはさんだような粗末な食事のことを言い、弁当という意味もあります。パリの駅の売店などにはこのカス・クルートがたくさん売られています。シェーヴル(山羊乳チーズ)をはさんだものもよく見かけましたが、パリの農業見本市ではフォワ・グラのパテをたっぷりはさんだ豪華なカス・クルートに出会いました。

日本ではバゲットを使うとフランス風にカス・クルートというようですが、イタリアでもほぼ同じようなものが売られています。こちらは当然イタリアだからでパニーノですが、さて日本で作ったら、どれがカス・クルートでどれがパニーノか。それが問題です。