フロマGのチーズときどき食文化

生ハムが好きです

2013年6月15日掲載

大皿いっぱいのハモン

肉食文化が欧米よりずっと新しい日本で、ハムと称している物の大半は日本独特の製品なんですね。日本でいう加熱したロースハムなるものはヨーロッパでは見かけない。

本来ハム(hame)というのは腿(もも)肉の事です。フランス語ではジャンボン、スペイン語ではハモンといい、いずれも腿肉を指しています。したがってロースハムという言い方は肩の腿肉となってしまうわけです。ヨーロッパでお目にかかるハムは大方がいわゆる生ハムで、豚の腿一本をそのまま塩漬けにして乾燥熟成させたものです。イタリア語のプロシュットは乾燥させたという意味があるのですね。

黒いイベリコ豚

かくいう筆者は生ハムぐるいだから、ヨーロッパへ行くと宝の山に入ったような気分です。フランスの生ハムはさほど有名ではありませんが、ピレネー山麓のバイヨンヌのハムが知られています。ここ数年来日本で人気上昇中なのがハモン・イベリコ・ベジョータというハムで、先年スペインのエトレ・マドゥーラ州のハモンの工房で大皿一枚分の試食用のベジョータが出され、これは夢かと一生分堪能しました。イベリコとはスペイン特産の黒豚でベジョータはドングリです。秋になったらイベリコ豚をコルク樫などの林に放牧しドングリを食べさせて太らせるのです。生産量は希少ですが高級品好みの日本の食通はベジョータでなければダメという人もいてデパートでは高値で売られています。

熟成中のコルシカのジャンボン

この五月の末からチーズ探訪の旅でヨーロッパに行ったのですが、コルシカ島北部の高原にMuratoという小さな村があり、そこでコルシカ特産の黒豚を使って現代風のジャンボンを作っている工房兼レストランを訪れました。まだ若いオーナーの話ではヨーロッパの伝統的な生ハムは塩辛すぎる(確かに)という事で、何年もかかって優しい塩味のハムを完成させたとのこと。当然たっぷりと試食しましたが、塩味が程よく実に洗練されたうまさでした。このハムはプロの間で次第に知れ渡り、今では星付きレストランからの引き合いも多いとか。訪問したときはたまたま、ニースでレストランを開業し20代でミシュランの星に輝いた松島啓介シェフがこの工房を訪れていて、ここのハムは絶品と賞賛していました。こんな幸せはめったにあるものではありません。

さて、世界三大なんとかが好きな日本人があげる、世界三大生ハムは何かといえば、イタリアはパルマのハム、スペインのハモンセラーノ、そして中国の金華火腿(ジンホォワホトイユ)だそうで、日本では金華ハムとも呼ばれています。

大量に出るパルミジャーノのホエー

では生ハムの王者といえばなにか。これはもう知名度と生産量からいえばプロシュット・ディ・パルマでしょう。パルマハム協会の資料によれば生産量は800万本を超えるというすごい量で、世界各国に輸出されています。パルマの生ハムを作るにはいくつかの厳しい規定があります。その一つに、原料豚を飼育するときに、必ずパルミジャーノチーズの製造時に出るホエー(乳清)を与えなくてはならないとあります。そして生産エリアもパルミジャーノのエリアと重なっていて、このハムはチーズとの関係が濃厚なのです。

ここで日本製の生ハムにモノ申します。なぜ、裏ラベルの添加物の量が3行もあるのでしょうか。パルマのハムはたった4文字「豚肉、食塩」だけです。日本人の情熱と技術をもってすればできないはずがないでしょう。それとも法律が厳しいのか・・・