日本にピースというタバコがあります。1952年に発売されたもので、濃紺の地色に銀色の鳩が小枝をくわえて飛んでいるという図柄です。これはアメリカのデザイナーの作品で、総理大臣の歳費1年分相当のデザイン料を支払ったと話題になったそうです。当時、とても洗練されたデザインとして評価が高かったとか。現在のデザインは当時の物とは変わっていますが鳩は健在のようです。
そこで、この鳩の事ですがキリスト教国の人ならこの図柄を一目見れば意味はわかるでしょうが、我ら仏教国?の者にとっては単なるイラストにしか見えないと思いますが、これには結構重大な意味が含まれているのです。右の写真の鳩はローマのサンピエトロ寺院の柱に刻まれた鳩で、くわえているのはオリーヴの枝です。このモチーフは、ヨーロッパの寺院などでよく見られますが、これは旧約聖書の最初の「創世記」の中に出てくるノアの箱舟の物語からきています。40日に及ぶ大洪水の後ノアは鳩を放って水の引き具合を調べます。二度目に放った鳩が口にオリーヴの小枝をくわえて帰ってきたのを見て、ノアは水が引き始めた事を知るのです。これがその鳩で後に平和の象徴になります。
でも、今回は鳩ではなくオリーヴの話です。アダムとイヴが出てくる創世記の成立はざっくり言って、今から3千年以上前ですが、その頃すでにオリーヴは重要な作物だった事をこの鳩が教えてくれているのです。オリーヴの木が本格的に栽培されたのは今から6千年ほど前で、東地中海の沿岸の国々だったようです。そのオリーヴがギリシャ人などの手で各地に広められていきます。オリーヴの木は乾燥地を好む植物ですが寒さに弱く、気温が7℃以下の日が続くと枯れるそうですが、東京でも見られるオリーヴの木は寒さに強い種類なのでしょうか。オリーヴはとても長生きで五百年、千年という老木もあるそうですが、以前イタリア半島のかかとの辺にあるバジリカータ州で5百年以上という老木を見ました。千年以上生きるというから、これは老木ではありませんね。
現在地中海地方で最もオリーヴの木が多いのがスペイン、次いでイタリア、ギリシャの順だそうです。今から2千年ほど前、古代ローマは西ヨーロッパを次々に征服し、属州になった地中海沿岸の各地にオリーヴの栽培を強力に推し進めていきます。こうしてオリーヴは地中海地方全体に広まり、重要な農作物になっていくのです。オリーヴはもちろん古代から油を取るために広く栽培されてきましたが、塩漬けにし、そのまま食べたり料理の素材などに広く使われている事は、みなさんご存じのとおりです。スペインのバルではワイン注文すると、オリーヴが付いてきたりします。次回はオリーヴ油について少し詳しくお話しましょう。