フロマGのチーズときどき食文化

世界一硬い加工食品

2012年5月15日掲載

カビを植えた高級な本枯れ節

最近、一般向けにフュメ・ド・ポワソン(Fumet de poisson)という商品が売られているのを知っていますか。これはフランス語で魚のだし汁という意味です。ポワソンは魚。肉のだし汁はご存じのようにフォン(fond=フォン・ド・ボーなど)というのに、魚のダシはフュメになるんですね。Fumetにはよい香りという意味もあるので魚や茸などから取る香りのいいダシをフュメというのです。
 それはさておき、フュメ・ド・ポワソンの本場といえば何といっても日本です。エー!?うっそーなんていわない。毎日のように使っているカツオ節のダシ、あれは正真正銘の香りのいいフュメ・ド・ポワソン、魚のダシですね。
 ということで今回はカツオ節の話です。カツオ節に似た食品はモルディブなど東南アジアの島々にもありますが、日本の枯れ節の様に洗練された物は他にはありません。またこれが庶民の料理から高級料亭まで味の基本となっているのも、日本だけの文化といえるでしょう。とはいえ、今では一般家庭で使うのはパックされた削り節が大方でしょうから、当然かつお節を手に取る機会は少ないでしょう。

硬いチーズの代表パルミジャーノ

世界一硬い加工食品といえばもうダントツにカツオ節です。釘だって打てちゃうし、凶器にもなり得る。カツオ節の最高級品は枯れ節、あるいは本枯れ節といわれるもので、この様なものに完成されたのは江戸時代になってからです。カツオを干したものは5世紀頃すでにあったそうです。カツオを3枚におろし、成型し茹でて干したものをナマリブシといいます。これを木を燃やした煙に当てて更に乾燥させた物を荒節(アラブシ)といい江戸時代に製法が確立されたそうです。当時は紀州(今の和歌山)や土佐のカツオ節が有名で、特に土佐藩は藩を挙げて生産に励みました。ところが消費地の江戸に運ぶ途中でカビが生えてしまう。これを逆手にとってコウジカビの一種を生やすことで、より質の高いカツオ節が出来上がるのです。カビがカツオ節の中まで浸透し水分を吸い上げ、蛋白質をアミノ酸に分解し濃厚な旨味を作りだすのです。このあたりはチーズに似ています。

硬いポルトガルの羊乳製チーズ

そこでかつお節はなぜあれほどの硬いのか、水分量を調べて見ると15%です。意外と多い。ピーナッツは6%、ピスタチオは2%強です。そこで超硬質のチーズ、パルミジャーノを調べるとかつお節と同じ 15%強ですが、硬いと言っても噛んで食べられますね。何が違うかといえば脂肪です。パルミジャーノの脂肪率44%に対しかつお節は2.2%と圧倒的に低い。かつお節はほとんどが蛋白質で出来ている。だからあんなに硬くなるのですね。
 ところが、この前ポルトガルに行った時に、地方の市場で直径5㎝ほどのメダル型の羊乳チーズを見つけて、食べようとしたんですが、硬くて携帯用のナイフでは全く歯が立たない。叩いても割れないのです。これではチーズ卸しも役に立ちそうもない。どうしたらこんな固いチーズが出来るのか。またどうやって食べるんでしょうね。世の中まだまだ解らない事がいっぱいあります。