乳科学 マルド博士のミルク語り

食中毒

2024年6月20日掲載

紅麹菌を使用したサプリによる食中毒事件は消費者に大きな関心と不安をもたらしました。最初このニュースを知った時、真っ先にカビ毒素(マイコトキシン)が原因かと思いました。麹菌が作るシトリニンは毒性のマイコトキシンとして知られています。しかし、日本で使用されている紅麹菌はシトリニンを作らないものが使用されていて、麹菌を利用するチーズについても、シトルニンを作る遺伝子を持たないことが調べられています。

シトリニンではないとすれば、青かびが産生するブベルル酸が腎臓に悪影響するという動物実験の結果を受けて、紅麹菌培養中にコンタミした青かび由来のブベルル酸が犯人かもしれないとの報道がありました(朝日新聞、2024年5月29日)。しかし、ブベルル酸については殆ど研究されておらず、専門家もいないそうです。結局原因究明は当分先になる可能性があり、かび系チーズの売れ行きに影響しなければいいのですが・・・。

紅麹サプリの決着がつかないうちに、東北地方の学乳で異風味騒動が発生しました。「いつもと違う」風味がするという訴えで、複数の学校から申し出があったそうです。学乳での異風味騒動はちょこちょこ発生しています。これらに共通しているのは「いつもと違う」風味がするという訴えです。
学乳の異常風味についてはJミルクから解説が出ていますのでご参考にしてください
https://www.j-milk.jp/knowledge/dairy/h4ogb400000045vu-att/h4ogb400000045y6.pdf

牛乳の異常風味には様々な原因が考えられます。乳脂肪が酸化した時に発生することが多いのですが、ランシッドと自発性酸化が代表的です。ランシッドは物理的な衝撃などにより脂肪球皮膜が破壊され、脂肪分解酵素であるリパーゼが脂肪を分解し、独特の不快臭を発します。工場における受入検査で簡単に検知できますので製品になって出荷されることはまずありません。一方、自発性酸化は光や熱によって徐々に酸化が進むもので、集乳時には異常がなくても後日異臭が発生します。乳脂肪中の多価不飽和脂肪酸(主に、リノール酸)が熱や光によって過酸化物となり、次々に連鎖反応が進み最終的にアルデヒドとなります。これが酸化臭の原因となります。
学乳で時折発生する異臭問題は、飲用した子供たちの一部で申出があるのですが、工場に保管されている同一ラインで製造された学乳をチェックしても異臭は再現できないことが殆どです。また、保健所が工場を立ち入り検査しても異常は発見されません。出荷してからの輸送や学校での保存方法が適切でない場合に発生する可能性があります。なお、牛乳の風味や風味異常について、Jミルクより最新の科学情報が発表されましたので、参考にしてください(
https://www.j-milk.jp/knowledge/dairy/f13cn000000009gn-att/h4ogb4000000ewwo.pdf)。

このコラムを書いている最中、食パンにネズミの一部が混入とのニュースが飛び込んできました。防虫・防鼠は食品を扱う者にとって最低限の対策です。外部や排水管などから入り込む場合が多いのですが、外部から納入されるダンボールなどに虫が付いている場合もあります。きちんとしたゾーニングが必須です。

チーズを作ったり、販売したりする場合、「いつもと違う」に敏感になる必要があります。作る場合には原料となる生乳やスターター、凝固剤などが「いつもと同じ」かどうか、販売する場合には受け入れた製品が「いつもと同じ」なのか注意する必要があります。工場や販売店で定めた受け入れ基準を満たしていない場合は返品です。合格していれば作業標準に従って製品を作り、工場で定めた出荷基準を満たしていれば販売店に出荷します。販売店では商品の状態や賞味期限を確認し、店で定めた販売基準を満たせば店頭に並べます。このように科学的根拠に基づいた基準に適合していれば通常不具合は生じないのですが、まれに基準に適合していても不具合が生じる場合があります。それは今回の紅麹サプリのように私たちがこれまで知らなかった原因による不具合の場合です。でも、知らなかったでは許されません。それ故に自分たちの商品に関連した科学について不断の勉強が必要になると考えます。

 

写真はイメージです。


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