乳科学 マルド博士のミルク語り

手造り食品

2024年3月20日掲載

「手造り〇〇」という商品を見かけますが、「手造り」とは機械を全く使わないことなのか、一部は機械を使っているのか、原料は機械で作られ、その後は機械を使っていないのか、など「手造り」の定義が分かりません。私が調べた範囲では定義は見つかりませんでした。
私の個人的な印象では、その商品の価値に影響する最も重要な工程を機械ではなく手作業で行った商品を「手造り」と呼んでも構わないと考えています。食品ではおいしさ、物性、あるいは栄養健康機能が価値であり、その価値を生み出す、あるいは損なわないためのキーとなる工程を手作業で行っている場合、手造り商品であると呼べると思います。なので、消費者はその商品をおいしい、健康的、使いやすいなどと感じて少々高くても購入するのでしょう。

何故、その工程を手作業で行うのかといえば、環境、天候、原料の品質などによりベストな工程条件が異なり、機械では微妙な条件設定が難しいためです。あるいは、機械でも可能だけど機械が高価で購入できないために仕方なく手作業している場合もあります。

「手造り」のメリットは、消費者に希少価値があると思ってもらえる、いかにも丁寧に作られたと感じてもらえる、作り手のこだわりや優しさを感じてもらえる、などと思います。ではデメリットは、少量生産なため一部地域にしか販売できず、知名度が低い点、衛生面には十二分の注意を払っているものの、作業員や環境からの汚染リスクがある点などが考えられます。

では、チーズの場合はどうでしょうか。ヨーロッパでの農家における伝統的な製法では機械は殆ど使われません。なので、現在でもその製法にこだわって作っていれば「手造りチーズ」といえます。しかし、実際はどうでしょうか。植物性レンネットを自家抽出して使用している農家はありますが、多くは、工業的に培養・抽出されたレンネットを使い、乳酸菌も工業的に培養され粉末化されたものを使います。圧搾も機械的に圧力をかけます。熟成は洞窟ばかりではなく、電気的に温度や湿度を制御された熟成庫で行っている場合もあると思います。あるいは熟成の工程は農家の手を離れ熟成士の手に委ねられることもあります。こうした場合、「手造り」と言えるかどうか、もやもやした気になります。

ソーセージの場合には「手造り」あるいは「手造り風」の表示を行う場合の基準が表のように示されています。これを参考にするしかないのですが、ネットには商品名に「手造り」と書いてあるものがあります。しかし、どこをどうしているから「手造り」なのか書いてありません。商品に書くことは難しくても、ホームページなどで何故「手造り」なのか分かるような説明がほしいです。個人的には、衛生面は大丈夫なのか、その商品の価値が安定的に実現されているのか、何故手造りと強調しているのか、・・・などと不安になります。消費者に誤解や過度の期待を持たせるような表示はすべきではないと考えます。

 

 


「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。

ⒸNPO法人チーズプロフェッショナル協会
無断転載禁