アロイス・カリジェ(1902-1985)はスイスの画家・グラフィックデザイナーで、絵本作家としてよく知られています。
1945年、故郷のグラウビュンデン州エンガディン地方でゼリーナ・ヘンツという女性の書いた物語に絵を描き、これがドイツ語とロマンシュ語で出版されました。後に世界中で翻訳されることになった『ウルスリのすず』です。ロマンシュ語では初の絵本であり、それはこのマイナー言語の話者である人々にとって大きな意義がありました。
日本でも1973年に岩波書店から刊行され(大塚勇三訳)ロングセラー絵本となっています。
ウルスリはエンガディンの山村に暮らす男の子です。ウシやヤギの世話をすませてから「鈴行列のお祭り」のための鈴(カウベル)を借りに行きます。このお祭りは「チャランダマルツ(3月1日の意味)」という春迎えの行事で、子供たちはカウベルを鳴らしながら村をねり歩くのだそうです。ウルスリはまだ小さいので小さい鈴を与えられますがそれが不満で、夏に暮らす山小屋に大きなカウベルを取りに行くのです。
奔放なウルスリと心配するお母さん、雪の残る山の景色、生クリームたっぷりかけた蒸し栗などが生き生きと描かれています。
カリジェとヘンツのコンビ2作目は『フルリーナと山の鳥』、ウルスリの妹が主人公です(大塚勇三訳 岩波書店 1974)。家畜を連れて山の夏小屋へ移動していくシーンから始まり、フルリーナと山鳥のひなを通じて、山での生活が描かれます。ウルスリも少し大きくなって頼もしい兄として登場します。そして秋に山を下りていくところでお話は終わります。3作目『大雪』でもこの兄妹に会うことができます。
その後のカリジェは絵本作品を発表しています。ぼくが好きなのは『マウルスと三びきのヤギ』(大塚勇三訳 岩波書店 1969)です。
ヤギ飼いの少年マウルスは、村人たちのヤギを預かって山に登っていきます。『ハイジ』におけるペーターと同じ暮らしですね。途中で3頭のヤギが見当たらなくなり、大雨に降られ足をくじいてしまい、たいへんな目にあいます。でも、マウルスはなんだか楽しそうなのです。
他にも『ナシの木とシラカバとメギの木』『マウルスとマドライナ』があります。
日本の画家・絵本作家安野光雅さん(1926-2020)は、カリジェの作品や足跡をたどる旅をしました。それが『カリジェの世界 スイスの村の絵本作家』(安野光雅著 日本放送出版協会 1992)として本になっています。スイスの各地に残されたカリジェによる壁画や宗教画も紹介され、現地でカリジェの気持ちを想像しながら旅をしていることが伝わってきます。
ぼくもグラウビュンデン州にウルスリやマウルス、そしてハイジ(こちらはドイツ語圏ですね)を訪ねる旅に出てみたいなあ…と思うのです。