皆様は“乳糖フリーチーズ”をご存じですか?最近、EU代表部から依頼され、広尾にあるEU代表部にてリモートプチセミナーをしてきました。あっ、勿論通訳を介して日本語でやりました。その際、EUのどこかの国の方から「“乳糖フリーチーズ”は日本の市場ではどうなんだ」という質問を受けました。恥ずかしながら、私は知りませんでした。
日本にも乳糖分解牛乳は市販されています(写真)が、乳糖フリーチーズを見かけたことはありません。そもそも、ヨーロッパでは日本より乳糖不耐症の方が少ないのに何故?チーズはホエイ排除する際に乳糖も排除されるので乳糖含量は低く乳糖不耐症の方でも安心して食べることができるのに何故?
そこでいろいろ調べてみました。下の図はヨーロッパにおける乳糖フリーチーズの売上を年毎にプロットしたものです(Dekker et al., Nutrients 11: 551, 2019)。2017年からの売上と2022年までの売上予測が示されています。すごい伸び方です。乳糖フリーチーズのみならず、乳糖フリー牛乳や乳糖フリーヨーグルトも同様に高い伸びを示しています。
では、何故このように伸びているのでしょうか。表は各種チーズ100g当たりの乳糖含量です。牛乳の場合、炭水化物はほぼ乳糖なので(注、乳糖以外の炭水化物として微量のオリゴ糖やたんぱく質や脂質に結合した糖質が含まれます)、炭水化物含量を乳糖含量とみなします。すると、熟成型のセミハードやハードタイプの乳糖含量は2g/100g以下ですが、フレッシュタイプでは4-5g/100gとなっています。
医学的には乳糖不耐症の方でも1回の乳糖摂取量が12g未満であれば乳糖不耐症に特有な症状は出ないことが分かっています。さらに、他の食品と共に、あるいは何回かに分けて乳糖を摂取する場合には18g程度までの乳糖を問題なく摂取できます。日本人のチーズ摂取量からすれば約4.2g/100gの乳糖が含まれているモッツァレラを100g食べても問題ありませんが、日本人の10倍くらい食べているヨーロッパ人であれば280g程度モッツァレラを食べる方がいても不思議ではありません。この量を一気に食べる人であれば、若干の不快な症状が現れるかもしれません。
このように、チーズ摂取量が日本人よりはるかに多いヨーロッパにおいては、乳糖不耐症の方は少ないのですが、フレッシュ系のチーズを食べる場合は若干尻込みする方がいて、乳糖フリーチーズならその心配がないという理由で需要が伸びていると推測します。
どのようにして作るのでしょうか。乳糖をラクターゼでグルコースとガラクトースに分解した乳を原料とし、あとは通常のチーズ製造と同じです。乳糖をラクターゼで分解する工程では、市販されているラクターゼの中からどれを選択するか、酵素の活性と使用量、反応温度と時間を決めなければなりませんが、条件さえ決まれば難しい工程ではありません。しかし、チーズを作るには乳酸菌による酸生成速度は変わる可能性があります。また、グルコースは甘いので風味も異なるかもしれません。私は乳糖フリーチーズを食べたことがありませんので、皆様の中で食べる機会があった方は是非どんな風味だったか教えてください。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
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