フロマGのチーズときどき食文化

食卓の花となったチーズ

2019年12月15日掲載

食卓の花となったチーズ

1.森の中の修道院

スイスにフロマージュ・ド・ベルレイ(Fromage de Bellelay)という名がラベルに表示されたチーズがある。この名前でチーズの正体が分かる人はチーズ通ですよ。でも見た事がある人は多いはず。このチーズの歴史はけっこう古く12世紀あたりにはもう存在していたようです。
スイスの北西部のジュラ山麓の森の中にベルレイという修道院があり、ここで小型のチーズが造られていました。この修道院がチーズの名の由来なのですが、やがてこのチーズが周辺に広がり「坊さんの頭=Tête de Moine」の愛称で呼ばれるようになります。後にこの名前の方がメインになるのですが、昔の名前もラベルの下の方に残しているというわけです。

2.別名フロマージュ・ド・ベルレイ

このチーズは現在ではセミハード系に分類されているけれど、「ラルースチーズ辞典」にはゴルゴンゾーラに似ているなどと書かれています。
そして、食べ方は上部の皮を薄く円形に切り取る(後でフタに使う)。そしてナイフでチーズを薄く削いで貝殻の形にすると書いています。

このジュラ山中で生まれた、さほど突出した個性があるわけでもない小型のチーズが、あるきっかけで世界を制覇するようになるのです。それはこのチーズをパーティーの花にする器具が生まれたからです。そう、みなさまもご存知のジロールという器具の発明です。以後チーズの盛り合わせに、このジロールで削ったチーズの花が添えられるようになるのですが、しかしこれで万々歳という事ではなさそうです。というのは、このチーズの花はもっぱら飾り物で、たっぷり食べさせるというコンセプトはないので、消費量はさほど多くはなさそうだし、この花はプレイトの飾り物と思い手を出す人は少なそうです。でもスイスの業者はジロールの使い方を車のドアーなどにカラー印刷し普及に努めています。

3.工房のチーズ盛り合わせ

3点目の写真のチーズ盛り合わせは、このテット・ド・モワンヌの工房を見学した後に、併設されているチーズ店で出されたものですが、やはり、ここでもこのチーズは装飾的な配慮がなされて盛られています。でも、ジュラ山中出身の無名だったこの小さなチーズは、この様に装飾的な役割に徹することで世界の市場に出ていく。これは画期的な事です。

4.ジロールの使い方の宣伝

このチーズを花のように削り取るジロール(Girolle)という専用の器具ですが、前述のラルースチーズ辞典(1973発行:翻訳版は1987年)にはまだ紹介されていません。ジロールはいつ頃発明されたかを知る資料もなかなか見つからないのです。
この器具のジロールという名前は削ったチーズの形がアンズ茸(ジロール)に似ているのでこの名がついたようです。でも日本人ならこの形はカーネションなどの花を連想すると思いますが、あちらの人はキノコに見えるんですね。確かに言われてみれば、その形はアンズ茸とやらに似てなくもないけど、細かいフリルのついた感じは、我々はやっぱり花を連想しますよね。民族の感性の違いというのは、なかなか面白いですね。

話は変わりますが、さる10月30日に開かれた中央酪農会議主催の「ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」で花を咲かせた同じ系統のチーズがありました。北海道のチーズ工房が製作した「フリル」という作品が農林水産大臣賞に輝いたのです。名前からして日本人特有の繊細な感性が伝わってきますが、写真の通りチーズのディスプレイも美しいですね。

5.日本に咲いたチーズの花











(付記:ジロールが開発された年代は1982年であるという資料を、CPA事務局長の桝田氏から頂きました。ありがとうございました。)


©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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