乳科学 マルド博士のミルク語り

ミルクパワーで医療費削減

2018年3月20日掲載

ミルクパワーで医療費削減

日本人の平均寿命は男性 80.98歳、女性 87.14歳となり、超高齢化時代になりました。日本人の平均寿命は男女ともに香港に次いで世界第2位です。高齢化に伴い、日本の総医療費も上昇し、平成27年の厚労省発表によれば約30兆円にもなっています。平成27年度の国家予算は約96兆円ですから、実に国家予算の30%以上が医療費関係となっています。似たような状況は日本のみならず、西欧の先進国でも報告されています。
ねえ、ひふみん、医療費を抑制する何かいい手はありませんか?「分かっていましたよ」と言われそうですが、目を付けた食材がひふみんも大好きなチーズを含む乳・乳製品です。
乳・乳製品は骨粗鬆症を予防、または軽減するだけでなく、生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病、循環器系疾患)に罹患するリスクを有意に低下させることが多くの論文に報告され、科学的根拠がしっかりしています。
しかしながら、西欧においてですら乳・乳製品の摂取量はガイドラインに示されている推奨摂取量以下です。ましてや日本においては言わずもがなです。

そこで、Doidgeはオーストラリア人に乳製品を推奨量摂取させた場合、どれ位生活習慣病が改善され、その結果として経済効果がいくらになるかを試算しました(Doidge et al., J. Nutr. 142: 1772-1780, 2012)(図1)。

すると、肥満の治療にかかる費用が約58億5千万AU$(日本円にして約4680億円、AU$1 = 80円として)であり、一方乳製品の摂取不足が原因と考えられる肥満治療にかかる費用は10億8千万AU$(864億円)でした。つまり、乳製品を推奨値どおり摂取していれば864億円を削減できると試算されたのです。同様に、Ⅱ型糖尿病では190億円を、虚血性心疾患では98億円、脳梗塞 190億円、高血圧 90億円、骨粗鬆症 178億円、総計1,600億円を削減可能なのです。この削減額はオーストラリアにおける総医療費の11.8%にもなります。
骨粗鬆症による骨折のみについて乳製品を推奨どおり摂取したと仮定した場合に削減可能な医療費についても報告されています(Hiligsmann et al. Arch. Osteoporos. 12: 57, 2017)。骨粗鬆症および骨折の治療に要する直接的な医療費だけではなく、患者自身の負担や家族や職場における負荷も社会的には大きな損失となります。この損失を金額に換算し、直接医療費と合算した削減額は、フランスで1.3億ユーロ(日本円で約170億円、€1 = 130円として)となり、スイスでは44億円、オランダでは4.8億円と試算されています。

では、日本ではどうなっているのでしょうか。残念ながら日本人を対象とした乳製品による経済効果を試算した報告は見当たりません。図2は厚労省が発表した2015年度における医療費の内訳です。金額的にはガンや循環器系疾患にかかる費用が大きな割合を占めています。
これら疾患のうち、乳製品を日々の食事に取り入れている人はそうでない人に比べて、循環器系疾患、糖尿病、骨粗鬆症+骨折のリスクが有意に低いことは日本人でも確かめられています。この3種類の疾患に関する医療費は合計8.6兆円です。

これらの疾患リスクが乳製品摂取によりオーストラリアと同様に10%下がったとすれば、8.6千億円もの医療費を削減できる計算になります。8.6千億円もあったら保育園を何個作れるのだろう、てなことを思わず考えてしまいます。
骨関係だけに絞って試算してみましょう。骨関係の医療費14.2千億円のうち、5%が削減できると仮定すると、700億円が削減可能です。
どうです?捕らぬ狸の皮算用かもしれませんがミルクパワーって、スゲーッと思いませんか。そだねー。

(次回更新は4月20日です。お楽しみに!)