世界のチーズぶらり旅

山羊達が住む遠い島々へ(1)

2016年8月1日掲載

眼下に島影が見えてきた

パリで飛行機を乗り継ぎスペインのマドリッドへ。そこからスペインの国内路線に乗り換える。座席は自由だったので、右の窓際に席を取った。私は機上から陸地を俯瞰(ふかん)してみるのが好きだから、飛行航路や太陽の位置を考えて席を取ることにしている。マドリッドから約1800キロ、2時間余の飛行の後に、もくろみ通り右側の眼下にカナリア諸島最北の島ランサローテの先端にある小さな島アレグランサが見えてきた。

大きな港の遊歩道

カナリア諸島といえば、アフリカ西岸100キロに点在するスペイン領の島々くらいの知識はあったものの、そこへ行ってみるという発想は全くなかった。チーズ関係ではマホレラという、この島特有の山羊がいてケソ・マホレロというDOP認定のチーズがあることは知っていたが、それ以外の知識は皆無に近い。今年の春だったか、チーズ普及の仕事を一緒にやってきた仲間から、突然カナリアへ山羊のチーズを見に行かない?と誘われ、そうかその手があったかとすぐに賛同。同じくマニヤックな人々が10数人集まり旅行は成立した。さてそこからが大変。カナリア関係の資料はほとんどないのである。スペインの旅行ガイドでもカナリアはほんの付け足しで、チーズなどはどこを探してもない。

古いヨーロッパの面影が・・

世界地図で見ると、カナリア諸島は巨大なアフリカ大陸の西のへり100キロ余の海域にパンくずのように散らばって見える。これらの島は、全て2000mの海底から吹き上がった火山島である。大小7つの島からなっていて、緯度は沖縄と同じくらいだから亜熱帯に属する。この程度の知識を携えて最初の目的地のグラン・カナリア島に着いた。「諸島」といえば、ひなびた漁村が点在するというイメージが浮かぶが、グラン・カナリアは直径せいぜい40kmの島ながら空港はかなり大きい国際空港だ。カナリアは800年にわたる西ヨーロッパ各国の領有権争いの結果、18世紀末以来スペインが領有することになる。そのためヨーロッパから遠いアフリカ圏の島々ながら、町にはヨーロッパ風の面影が残っている。

エキゾティックな雰囲気のホテル

日本を出てパリとマドリッドで飛行機を乗り継ぎほぼ24時間。はるばる来たぜ・・という感じであった。最初の島グラン・カナリアは円形の島で、主要な町のほとんどが東と南の海岸線にある。海岸を走る道路沿いには椰子の並木があり、所々にサボテンが生え、時にはバナナの畑も見えるが、決して緑豊かな島ではなく島全体は乾燥していて植物は貧弱だ。今夜の宿がある町、ラス・パルマスはかなり大きい都会的な港町である。まずは、古いヨーロッパの面影を残すという、この町の歴史地区を散策してみて、これらの島々への偏見が少しは払拭された。ここはアフリカではないのだ。第一回目の食事は遅めの昼食。少しは調べたが、この島々の料理はさほど手の込んだ物はなさそうである。まずは冷たい野菜スープ、ガスパチョだった。ここはスペインなのだ。次に魚の料理。この島特有の料理らしい。そしてデザート。フランス風と違って食後にチーズは出ないが、この島でつくられたワインはなかなかのものだ。

最初のチーズ

さて、今夜のホテルは椰子の木の小さな林がある広い敷地に建つ、豪壮なといいたくなる建物だが、この建築様式が気になった。まずは写真で見るようにベランダがある。これはヨーロッパにはあまり無い。ベランダという言葉はポルトガル語だと司馬遼太郎氏が書いているが、この建築様式は、大航海時代にインドからきたという説がある。それに両側に建つ2個の丸い塔はどこかイスラムの匂いがするという風な、変わった建物である。

さて、肝心のチーズだが、初日には、とうとう山羊にもチーズにもお目に掛かれなかったが、翌日ホテルの朝食に数種類の山羊乳のチーズが出ていて、やっとカナリア諸島のチーズにお目にかかることができた。今後のチーズ探訪が楽しみである。(この項続く)