フロマGのチーズときどき食文化

チーズのかたちの面白さ

2016年10月15日掲載

ミルクという白い液体からなぜこれほど、無数といっていいほどの形、大きさ、味の違うチーズができるのか。これはもう奇跡といっていいほどだ、と筆者は常々考えていて、チーズの旅に出るたびに、今度はどんなチーズに出会えるかと期待が高まるのです。

そんな訳で、ここ20数年間撮り貯めた写真の中から変わった物、面白いもの、あるいは可愛らしい形のチーズを紹介しましょう。

小さなチーズ達

一点目の写真はフランスの地方都市のチーズ売り場です。小さなシェーヴル・チーズが並んでますが、どれもが直径6~7cmほどの可愛らしいチーズです。星型、ハート形、台形など6種類ありますが、プライスカードには、Petits Caillouxとあり、皆同じ名前なんですね。フランス語のCaillé(カイエ)は凝乳などの意味があるので、小さなチーズ達というくらいの意味でしょうか。

Salaというチーズ

2点目は一転してド迫力のチーズ。これはイタリアのピエ・モンテ州の小さな工房で出会ったチーズです。その工房はスロー・フード発祥の町として有名なブラに近い小高い丘の上にあり、二人のおばさんがムラッツァーノというD.O.P.チーズを作っていました。そこで、試食の時に出されたのがこのチーズで、野球の一塁ベースほどの大きさです。紙切れに書かれたチーズ名はSALAでしたが正体不明のチーズです。少し癖があるけどおいしかった。イタリアは変わった形のチーズの宝庫です。

モンテ・ボレ

3点目はモンテ・ボレという北イタリア産のチーズですが貴重品です。このチーズは40年ほど前に作り手がいなくなり絶滅したものを、地元の人が復活させたんだそうです。どうしてこのような、お供え餅のように三段になっているのかは解りませんが、原型は牛乳、羊乳、山羊乳のチーズをそれぞれくっつけたという説もありますが、写真のチーズは牛乳と羊乳を混ぜて作ったものだそうです。この写真自体がもう10年以上前に、パリの国際見本市で写した物だから、もしかした、らもう無くなっているかもいるかも知れません。

ラグザーノ

次のチーズもイタリアのシチリア島のチーズです。長さは50cmほどの武骨な角材のような形のチーズですが、ラグザーノというれっきとしたD.O.P.認定のチーズです。このチーズの製法はパスタ・フィラータといい、固めたカードを湯で溶かして引き延ばして繊維状の組織を作るもので、モッツアレラなどの製法に似ています。日本の裂けるチーズがそうですね。それがどうしてこんな形になったかというと、20世紀の初頭、南イタリアから大量の移民がアメリカに渡ります。そして、新天地に落ち着いた彼らは故郷のチーズを恋しがったので、シチリアのチーズもアメリカへの輸出が急増します。そこで大量に船に積み込めるように、安定性のあるこの角材型のチーズになったのだそうです。

モンゴルのチーズ

最後のチーズはまるで、干菓子のラクガンの様ですがこれもチーズです。このチーズはモンゴルのウランバートルの市場で買った物です。チーズには、アジア型とヨーロッパ型があるといわれていますが、製法の違いを大雑把に分けると、ヨーロッパ型はミルクをレンネットで凝固させて、脱水して熟成させますが、アジア型は酸で凝固させ、熟成はさせなません。このモンゴルのチーズはアーロールといって、ミルクから脂肪分を取ったあと、乳酸発酵させて固めるのです。要するに強烈に酸っぱいヨーグルトですね。それを鍋で煮詰めてから水分を搾り取り、様々な形にして乾燥させます。だから、強烈に酸っぱく、固くて歯が立たないものもあります。

チーズの形や大きさは、作られる風土や生活環境、そして人の知恵によって形作られるといいます。ヨーロッパには何百年も形を変えないチーズもたくさんありますが、生活が近代化した現代では、市場性のある新しい形のチーズも沢山誕生しているのです。